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オーストラリアビジネス法務(6)ー会社の設立ー

弁護士 髙橋健

 

1.オーストラリアビジネスを展開するうえで必要となる現地の会社(法人)

 

 

オーストラリアで本格的にビジネス展開する場合、オーストラリア現地で会社を設立することが考えられます。今回は、その場合に参考となる情報として、オーストラリアの会社の種類や、設立時の人的基盤を考える際や名称を決める際の注意点を、簡単にお話しようと思います。

 

 

会社を立ち上げることのメリットは、典型的には、対外的な信用度の確保や、代表者(設立者)とは別人格の法人(会社)をもって様々な権利・義務の発生原因となるビジネス(契約等)を行うことができる点があげられます。

 

また、出資者(株主)の責任と法人の責任は、分離して考えることが可能となります。

つまり、法人が借り入れの債務などを金融機関に負ったとしても、直ちに株主や代表取締役等の個人は、その債務を負担せず(但し、別途、代表者個人等が、金融機関との間で連帯保証契約を締結した場合は、当然、当該個人も債務を負うこととなります)、株式に対する支払額(出資額)のみ責任を負うこととなります(それゆえ、それら個人の人々は安心して出資や代表取締役に就任することができます)。

 

 

もっとも、この最後のメリット(個人の方の有限責任)は、日本と同様、オーストラリアでも、会社の種類によって享受できるか否か異なります。

 

すなわち、日本の株式会社と類似する会社である、Company Limited by shares(有限責任株式会社。CORPORATIONS ACT 2001(以下単に「豪州会社法」といいます。) 第112条(1)。)は、その名の通り、株主(出資者)の責任は有限(出資額のみに限定される)である一方、Unlimited Company with share capital(無限責任株式会社。豪州会社法第112条(1))は、株主個人が会社の債務を連帯して負います。

 

 

日本企業がオーストラリアで会社を設立する場合は、圧倒的に前者である有限責任株式会社の形態が多いかと思います。

そして、この有限責任株式会社は、さらにPublic company(公開会社)とProprietary company(非公開会社)に分類されます。

後者は、前者に比べ、適用される豪州会社法の規定が少なく、比較的自由に会社運営を行うことができますが、株主が50名以下という制限が設けられています(豪州会社法第113条(1)(a)~(c))。

 

この株主数の制限を聞くと、日本の弁護士であれば、2006年の新会社法施行前に認められていた有限会社(社員数が50名以下)を思い浮かべるかと思いますが、イメージとしては、そのような小規模で、比較的柔軟に会社運営ができる会社、といったイメージです。

 

なお、豪州会社法上の非公開会社には、Large proprietary company(大規模非公開会社)とSmall proprietary company(小規模非公開会社)の2種類がありますので(豪州会社法第45条A(2)及び(3))、注意が必要です。

 

日本企業がオーストラリアに進出し、まずオーストラリア現地で会社を立ち上げる場合は、当該企業がよほど大きな資本力のある大企業でない限り(例:株主数が50名を超える場合)、通常は非公開会社を選択するでしょう。

 

 

2.会社設立時点の人的基盤について

 

 

次に、会社設立にあたり必要となる人的基盤について、お話します。

 

まずオーストラリアの有限責任株式会社もその名の通り株式会社ですので、株主が必要となりますが、日本と同様、最低1名で足りると考えられています(豪州会社法第114条)。

 

また、非公開会社であれば、Director(取締役)として最低1名が必要とされています(豪州会社法第201条A(1))。

そして、最低1名の取締役は、「must ordinarily reside in Australia.」、つまりはオーストラリア国内に通常居住していなければならない、とされています(同条同項)。

 

この取締役の1名が通常オーストラリアに居住していなければならない規定は、まだオーストラリアでそれほどしっかりとした人的基盤を有していない日本企業にとって、大きな障壁になるかもしれません。

 

そこでオーストラリア国内には、そのような場合に対応すべく、会社の運営をサポートする業者が存在し、会社設立時の取締役就任まで業務として対応してくれる業者も存在します。

 

日系企業のオーストラリア進出案件に積極的に取り組んでいるオーストラリア国内の会計士事務所さんや法律事務所さんにおいては、こういった業者さんとのコネクションを有していることが多いようで、当職が業務提携を結んでいるオーストラリア国内の法律事務所においても、適宜、会社設立の際にそういった業者さんをご紹介しています。

 

当然ながら、そういった業者さんに取締役就任を依頼するとしても、全ての業務を丸投げするわけにはいきませんので、信頼のできる業者さんに依頼することが必要となります。

 

 

3.会社の名称について

 

 

最後に、細かな議論ではありますが、会社の名称を決める場合のことも、以下、少しだけお話しておきます。

 

 

まず、有限責任株式会社を設立する場合、会社の名称として、名称の最後に「Limited」(公開会社の場合。略語はLtd)、あるいは「Proprietary Limited」(非公開会社の場合。略語はPty Ltd等)を原則付けなければなりません(豪州会社法第148条(2)。なお、例外として豪州会社法第150条及び151条参照)。

 

日本の株式会社の場合は、いわゆる前株と後株どちらもあり得ますが、オーストラリアでは、基本的に後ろにLimitedやProprietary Limitedを付することになります。

 

 

そして、実際の手続きとしましては、候補となっている会社の名称が、すでに他者によって登録・使用されているか否かを確認する必要があります。

その方法としては、Australian Securities Investments Commission(オーストラリア証券投資委員会。以下「ASIC」といいます。)という組織のウェブサイトにおいて検索することができます(本コラム作成時点では、ASICのウェブサイト上の「Company name availability」というページから「Check Name Availability search」というところに入っていけば検索できます)。

 

また、それとともに、他者のTrade mark(商標)にも抵触していないか、確認する必要があるため、IP Australiaのウェブサイトでも検索を行う必要があると考えられています。

 

 

英語ではありますが、ASICのウェブページでは、例えば名称決定の際の注意点について、映像を用いながらガイダンスする等されており(本コラム作成時点では、business nameのページではありますが、コーヒショップのオーナーの方が体験談を語るような形式で映像が作成・公開されています)、英語が苦でなければ、参考になる情報が多く存在します。

 

 

 

 

以上、かなり部分的なお話となってしまいましたが、オーストラリア国内での会社設立に関連する注意点をご説明しました。

次回以降も、引き続き、こういったオーストラリアビジネスを展開するうえで有益な情報を提供していく予定です。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

弁護士 髙橋 健

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