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オーストラリアビジネス法務(9)-取締役会について(その1)-

弁護士 髙橋健

(本コラムでは、特段の断りがない限り、日系企業がオーストラリア進出の際によく用いる法人形態であるCompany Limited by shares(有限責任株式会社)で、かつProprietary company(非公開会社)を念頭においてお話します。)

 

 

1 オーストラリア会社法における取締役会の権限(Powers of directors)

 

 

(1)オーストラリア会社法の定めについて

 

 

今回も、法人設立型の合弁契約を想定しながら、重要と考えられる豪州会社法の規定を、それがReplaceable rulesとして定められているか否かという視点も交えて検討します。

 

今回は、取締役会に関する規定です。

 

 

まずオーストラリア会社法198A条の(1)及び(2)において、会社の事業は、取締役会の方針によって運営され、取締役会は、会社の全ての権限を行使することができる、とされています。

 

同条の(2)では、例として、取締役会は、原則として、株式発行や借り入れなどが可能、とされています(日本の会社法では、非公開会社は、新株発行は株主総会の決議事項とされている点と異なります)。

 

 

もっとも、オーストラリア会社法には、当然、株主総会の存在及びその決議事項等が定められており、かつその株主総会の決議事項には、取締役会で決議をすることが許されない事項が存在しています。

 

そのため、上記オーストラリア会社法198A条(2)では、会社法で株主総会にて決議すべきとされている事項については、取締役会はその権限を行使できないとされています。

 

 

(2)定款で取締役会の権限を制限することは可能か?(Replaceable rulesか?)

 

 

さらに、同条では、取締役会は、(会社法ではなく)定款において株主総会決議事項とされた事項に関する権限も行使できない、とされています。

 

つまり、この取締役会の権限を定めた198A条は、いわゆるReplaceable rulesとされており、定款によって取締役会の権限を株主総会の権限とし、取締役会のそれを制限することが可能となっています。

 

そして、合弁契約においては、このReplaceable rulesであることを前提として、当該合弁事業にとって重要と考えられる(かつオーストラリア会社法では、株主総会決議事項とはなっていない)事項につき、株主間契約や定款で、株主総会の決議事項とすることが通常といえます。

 

 

2 オーストラリア会社法における取締役会の構成員の人数と定足数(Quorum at directors’ meetings)

 

 

次に、取締役会の構成員(取締役)の人数と定足数につき、簡単に確認したいと思います。

 

 

まず人数ですが、オーストラリア会社法では、原則、最低取締役数を1名と定めているだけで(オーストラリア会社法201A条(1))、特段それ以上、日本の会社法のように取締役会設置会社の場合は取締役が3名以上等定めていません。

 

 

取締役会の定足数については、取締役2名とされています(オーストラリア会社法248F条)。この定足数の取締役は、取締役会が行われている間、それに出席していなければなりません(同条)。

 

ただ、このオーストラリア会社法248F条は、Replaceable rulesとなっていますので、定款で変更することが可能です。そのため、合弁契約の際、定足数を2名以上に設定することが可能となります。

 

 

 

以上、簡単ですが、オーストラリア会社法における取締役会の規定につき、検討を加えました。

 

招集方法や決議要件など、まだ確認できていない部分もありますので、それらは次回のコラムで扱いたいと思います。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

弁護士 高橋 健

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