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オーストラリア遺言・相続法務(8)ー遺留分&Family Provision制度ー

弁護士 髙橋健

 

今回は,法律上,遺言書を作成しても,遺言者が決定することができない遺産の割合として,日本の遺留分制度とオーストラリアのFamily Provision制度をご紹介します。

 

 

1 日本の遺留分制度について

 

 

まず,オーストラリア在住の日本人の方の遺言・相続の場面を念頭におきつつ,日本の遺留分制度の概要をご説明します。

 

日本の「法の適用に関する通則法」第36条によれば,「相続は,被相続人の本国法による。」とされています。

 

したがって,被相続人が日本国籍の方であれば,少なくとも日本の遺産に関しては,日本の法律(民法)が適用されることとなります。

 

そのため,仮にオーストラリアに長く居住されている場合であっても,その方が日本国籍である限り,遺言書作成や相続手続の場面では,遺留分を考慮しなければなりません。

 

そして,ご承知の通り,日本の遺留分は,認められる範囲は限られているものの,裁判所の決定等を要することなく,基本,当然に認められるものです。

この点が,後述しますオーストラリアのFamily Provisionと大きく異なります。

 

 

2 オーストラリアのFamily Provision制度について

 

 

一方,オーストラリアの法律では,被相続人の国籍で依拠する法律が決まることにはなっておらず,遺産の所在地等でそれが決まることとなっています。

 

そのため,オーストラリア国内の資産の相続手続きにおいては,日本の法律(遺留分)ではなく,オーストラリアの法律が適用される,と解される可能性が高くなります。

 

 

そこで出てくるのが,日本で馴染みのないオーストラリアのFamily Provision制度です。

 

このFamily Provision制度は,日本の遺留分制度と類似するものといえますが,大きく異なる点として,「裁判所の判断を要すること」と,「認められる範囲が広い」ことがあげられます。

 

つまり,Family Provisionは,遺留分と比較して,「当然には認められないが,認められる範囲は広い」,より実態に沿った判断がなされる制度といえるでしょうか。

 

 

一例をあげれば,日本では,内縁関係にある配偶者には,相続権が認められず,それ故,その者には遺留分は認められませんが,Family Provisionでは,ケースバイケースで内縁の配偶者にもクレーム権が認められます。

 

 

このように,オーストラリアのFamily Provisionは,日本の遺留分制度と似た概念ではあるものの,異なる点も多いことから,遺言書を作成する際や,いざ実際にオーストラリア国内で相続手続きが開始した場合等には,注意が必要です。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

弁護士 高橋 健

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