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オーストラリア遺言・相続法務(1)ー日本には無い配偶者の権利ー

弁護士 髙橋健

 

【オーストラリア遺言・相続法務(1)-日本には無い配偶者の権利-】

 

 

1 今回のテーマ-日本には見られない配偶者の特権(?)-

 

 

オーストラリアの相続法には,日本では見られない制度が多数存在しています。

 

今回は,そのうち,日本の相続法(民法の一部)には無い配偶者の権利を見てみたいと思います。

 

 

なお,今回は,いわゆる遺言が存在しないケースの相続分配(Distribution on intestacy)を念頭においてお話します。

 

また,下記「2」でお話する通り,オーストラリアでは,各州によって相続法の内容が異なっていますが,今回は,日本人の方が多く不動産等を所有しているクイーンズランド州(ブリスベン,ゴールドコースト,ケアンズ等)の相続法を取り上げます。

 

 

2 前提としてオーストラリア相続法の概略

 

 

今回ご紹介する配偶者の権利をお話する前に,簡単にオーストラリア相続法の概略を見てみましょう。

 

 

オーストラリアは,日本と異なり,連邦国家です。そのため,オーストラリアでは,憲法で連邦の専属的権限とされているもの(連邦議会だけが立法できるもの)であったり,州でも制定できるとされているもの等が存在しています。

 

そして,相続の分野は,連邦の専属的権限の分野とはされていないため,各州で相続法等が制定されています。

 

今回取り上げるクイーンズランド州では,「Succession Act 1981」(Current as at 22 March 2016。以下,本コラムではこれを「Succession Act」と呼びます。)という州法が存在し,基本的にはこの州法に基づき遺言や相続問題を処理していくこととなります。

 

 

なお,オーストラリアの法体系は,日本と異なるコモンロー(判例法)ですが,上記のように,法律も一定数存在します。

 

例えば,会社法についても,2001年連邦会社法(Corporations Act 2001(Cth))という制定法があり,基本的にオーストラリア全州にこの会社法が適用されます。

 

 

3 Succession Actで認められている配偶者の権利

 

 

それでは次に,Succession Actで認められている配偶者の権利を見てみましょう。

 

まず,被相続人に配偶者しか存在せず,夫婦間に子供がいないケースを考えてみましょう。

 

この場合,基本的には被相続人の全ての財産を配偶者が取得することとなります(Succession Act sections 35~37,Schedule 2 part 1 Circumstance 1)。

 

この点は,日本の相続制度と類似しているように思われますが,注意しなければならない点は,仮に被相続人の方が早くに亡くなられてしまい,被相続人の両親が健在であっても,基本的に配偶者が全ての相続財産を取得するということです。

 

日本の相続法では,そのような場合,配偶者と直系尊属(両親等)がそれぞれ3分の2,3分の1ずつ相続することと異なる点,注意が必要です。

 

 

 

次に,被相続人に配偶者と子供1人が存在するケースを考えてみましょう。

 

この場合,まず配偶者は,相続財産のうちから,15万ドルと家庭用品(household chattels)を取得し,その後残りの相続財産のうち2分の1を取得することとなります(Succession Act sections 35~37,Schedule 2 part 1 Circumstance 2)。なお,仮に子供が2名以上いた場合は,配偶者は残りの相続財産のうち3分の1を取得します。

 

このうち,配偶者が,まず先行して15万ドル(仮にオーストラリアドルを1ドル85円で換算すると,日本円で1275万円となり,結構な金額となります。)と家庭用品を取得する,という制度は,日本の相続法には全く見られない制度であり,注意が必要です。

 

そして法律家であれば,「家庭用品」という抽象的な文言が使われている関係で,その範囲が気になるところですが,そこは,Succession Act sections 34Aにて,具体的な例とともに定められています(イメージとしては,家具など,まさに家庭で生活のために使われている動産類という感じでして,そこには基本的に自動車などは含まれない,とされています)。

 

また,子供が1人の場合は残った相続財産を配偶者と子供で2分の1ずつ取得する,としている点は,日本の相続法と同様なのですが,子供が2名以上の場合は,配偶者の相続分が3分の1となる点も,日本の相続法と異なる点として注意が必要です。

 

 

4 まとめ

 

 

以上見てきたように,オーストラリアの相続法では,日本には見られない配偶者の権利が認められています。

 

このようにオーストラリアの相続法は,日本と異なる点が数多く存在しますので,相続が発生した場合に日本の相続法の知識だけで対応することはリスクを伴います。

 

もし皆様の中で,オーストラリアでの相続問題に直面し,お困りの方がいらっしゃれば,お気軽に当事務所までお問い合わせください。

 

当事務所では,オーストラリア現地でしか分からない細かな知識や実際の相続手続きなど,極めて専門的な知識を要する案件であっても,オーストラリア現地の弁護士と共同して案件に対応させていただきます。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

弁護士 高橋 健

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