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オーストラリア遺言・相続法務(2)-日本には無い手続【Letters of Administration】-

弁護士 髙橋健

 

オーストラリア遺言・相続法務(2)-日本には無い手続【Letters of Administration】-

 

 

1 日本には無いLetters of Administrationとは?

 

 

オーストラリア遺言・相続法務の2回目は,日本には無いLetters of Adiministrationという手続を見ていきたいと思います。

 

なお今回も,1回目に引き続いて,日本人の方が比較的多く不動産等を所有しているクイーンズランド州(ブリスベン,ゴールドコースト,ケアンズ等。以下「QLD」といいます。)の相続制度を取り上げます。

オーストラリアの相続制度は,各州によって大きく異なりますので,この点くれぐれもご注意ください。

 

 

さて,日本において,遺言書が無い状態で相続が開始された場合,相続人は,「相続開始の時から」,被相続人の財産に関する一切の権利義務を承継することとなります(民法896条本文)。

 

相続人が複数人いたり,遺産に不動産がありその分割方法等で争いが生じている場合などであっても,基本的には,被相続人の遺産は,相続開始(相続人の死亡)と同時に相続人に直接帰属することとなります。

 

 

しかしながら,オーストラリアの相続制度は,ここが大きく異なります。

 

QLDの相続法の適用がある相続案件では,裁判所が被相続人の遺産を管理する者(遺産管理人)を選任し,当該遺産管理を行うための権限を付与する命令を出してもらう必要があります。

 

この裁判所の命令あるいはこの裁判所の命令に関連する手続のことをLetters of Administrationといいます。

 

QLDでは,上記の裁判所のLetters of Administrationによって,誰に今回の遺産管理手続をする権限があるか等が明らかにされます。

 

そして,このような手続きを要するQLDでは,被相続人の財産は,直接相続人に帰属せず,遺産財団(Estate)というところに一旦帰属し,遺産管理人がそれを適宜,QLDの相続法等に従って管理・分配していくこととなります。

 

 

このように,QLDにおける遺言書がない相続案件では,日本には全く存在しないLetters of Administrationというものを取る必要があります。

 

 

なお,国際相続案件では,よく「国によってはProbate(プロベイト)という手続きが必要」という話を耳にするかと思いますが,オーストラリアでは,遺言書が存在する事案で必要になるものがこのProbateであり,遺言書が存在しない場合に必要になるものが今回紹介したLetters of Administrationである,という形で整理されているようです。

 

 

2 Letters of Administrationの背景にある考え方

 

 

それでは,なぜQLDでは,上記のような手続が必要となるのでしょうか。

 

 

ここで登場するのが,これもよく国際相続案件で耳にする「管理清算主義VS包括承継主義」という考え方の対立です。

 

 

まず包括承継主義という考え方ですが,これは,日本のように被相続人の遺産は,特別な手続を要することなく,相続開始と同時に相続人に帰属する,という考え方です。

 

他方で,管理清算主義という考え方(オーストラリアもこの考え方に立脚しています)は,被相続人の遺産というのは,相続開始と同時に直ちに相続人に帰属するのではなく,被相続人の死亡によって形成される遺産財団というところに帰属し,それを裁判所によって選任された遺産管理人が管理・分配することによって,はじめて相続人に遺産が帰属していく,という考え方です。

 

 

このようにLetters of Administrationという日本にはない特別な手続が必要となる背景には,日本とオーストラリアとの間で,上記のような相続に関する考え方の違いがあります。

 

 

3 まとめ

 

 

以上の通り,QLDの相続法が適用される相続案件で遺言書がないケースでは,日本にはみられないLetters of Administrationという手続きが必要となります。

 

こういった手続を要するQLDの相続案件については,その専門性ゆえ,その分野を積極的に取り扱っている日本の弁護士等に相談しながらも,最終的には,QLD現地の弁護士にご依頼されるのがベストと考えられます。

 

 

 

本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。

 

弁護士 高橋 健

 

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