婚姻費用の請求方法

夫婦である以上,婚姻関係が破綻し,別居している場合であっても,法律上,離婚に至るまでの間,収入の少ない方から収入の多い方に対して,婚姻費用の支払を請求することができることは,以前,解説させていただいたとおりです(「過去の婚姻費用」)。

 

そして,実際に婚姻費用を請求するにあたっては,①裁判外の交渉によって請求する,②家庭裁判所に対して,「婚姻費用分担請求調停」を申し立てる,③家庭裁判所に対して,「婚姻費用分担請求審判」を申し立てる,のいずれかの方法を採ることとなります。

 

このうち,②及び③の裁判手続を利用する場合,法律上定められた管轄のある家庭裁判所に対して,調停又は審判の申立てを行う必要があるのですが,②の婚姻費用分担請求調停については,相手方(婚姻費用の支払義務を負う側)の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所(家事事件手続法245条1項),③の婚姻費用分担請求審判については,夫又は妻の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に対して,申立てを行わなければなりません(家事事件手続法150条3号)

 

そのため,②の婚姻費用分担請求調停の申立てを行う場合には,相手方との間で管轄についての合意が成立しない限り,相手方の住所地を管轄する裁判所に対して,婚姻費用分担請求調停を申し立てなければならず,相手方が遠方に住んでいる場合には,遠方の家庭裁判所に出頭しなければならないため,経済的に大きな負担となってしまいます。

 

他方で,③の婚姻費用分担請求審判であれば,夫又は妻の住所地を管轄する家庭裁判所に対して,申し立てを行うことができるのですが,家庭裁判所は,家事審判について,いつでも調停に付することができ,一般的に,裁判所自らが婚姻費用についての判断を示す審判手続よりも,当事者間の話し合いで婚姻費用の金額を定める調停手続による解決を優先させることが多いため,婚姻費用分担請求審判を申し立てても,調停手続に付され,相手方の住所地を管轄する裁判所に移送されてしまうのが通常です(家事事件手続法274条)。そうなると,婚姻費用分担請求審判を申し立てても,結局,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に出頭しなければならないこととなってしまいます。

 

そこで,自らの住所地を管轄する家庭裁判所において婚姻費用に関する裁判手続を進める方法としては,婚姻費用分担請求審判の申立てと同時に,「婚姻費用分担請求審判前の保全処分」(家事事件手続法106条)という保全処分の申立てを実施するという方法があります

この「婚姻費用分担請求審判前の保全処分」というのは,相手方に対して,婚姻費用の支払いを命じる緊急性・必要性が存在する場合に認められるものですので,申立人において,保全処分を求める事由(早急に婚姻費用が支払わなければ,申立人自身や子どもたちの生活が困窮することになるといった事情がこれに当たります)を疎明する必要がありますが(同条2項),この保全処分の申し立てを行うことにより,申立人の住所地を管轄する裁判所において,婚姻費用分担請求審判前の保全処分の審理が行われ,それと並行して,婚姻費用分担請求審判についての審理も行われることとなりますので,②の婚姻費用分担請求調停を申し立てた場合のような不都合は生じないこととなります。