有責配偶者による婚姻費用分担請求は認められるか
法律上,婚姻関係が破綻し,夫婦が別居するに至った場合であっても,原則として,別居から離婚に至るまでの間,収入の少ない方から収入の多い方に対して,婚姻費用の支払を請求することができることは,以前ご紹介させていただいた通りです(「過去の婚姻費用」参照。以下,婚姻費用を支払う側を「義務者」,婚姻費用を受ける側を「権利者」といいます。)。
しかしながら,権利者が不貞行為を行った場合のように,婚姻関係破綻に至った原因が権利者にある場合でも,権利者は,義務者に対して,婚姻費用の支払を請求することができるのでしょうか。本稿においては,有責配偶者からの婚姻費用分担請求が認められるかという点について,解説させていただきます。
この点について,裁判例上,婚姻関係破綻に至った原因が専ら又は主として権利者の側にある場合には,権利者による婚姻費用分担請求を否定もしくは制限する傾向にあります。
例えば,大阪高等裁判所平成16年1月14日判決は,「別居の原因の全部又は大部分が婚姻費用の請求者側にある場合には,一方で,請求者自身が夫婦の同居協力を失わせておきながら,他方で,相手方配偶者に扶助(婚姻費用の分担)のみを求めることは信義誠実の原則に反しているから,このような場合にまで,通常の夫婦と同様の婚姻費用分担額を定めることは不公平な結果となる。
したがって,有責配偶者からの婚姻費用分担審判の申立てがされた場合には,申立て自体が権利の濫用であるとし,婚姻費用分担額を零円とする趣旨で申立てを却下するか,そうでないとしても,通常の夫婦間における扶助義務(いわゆる生活保持義務)よりも程度を減じて分担を命ずるのが相当である。」と判示しています(なお,当該事案においては,別居の原因の全部又は大部分が権利者にあることを否定し,権利者による婚姻費用分担請求を任用しています。)。
また,東京家庭裁判所平成20年7月31日審判は,「別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというべきところ,申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって,このような場合にあっては,申立人は,自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず,ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。」と判示しております。そして,同審判は,当該事案において,権利者が監護している未成年の子の養育費の限度で,婚姻費用分担請求を認容しました。
以上の通り,婚姻関係破綻に至った原因が,専ら又は主として権利者の側にある場合には,権利者による婚姻費用分担請求は否定又は制限されることとなりますが,具体的な分担額を決定するにあたっては,別居に至った経緯,破綻の原因,回復への努力などの有責性の程度や,資産,収入,職業能力等の諸般の事情が考慮されることとなります。
弁護士 野田 俊之