医療法務の知恵袋(13)【医療事故として報告しなければならない場合】
Question
平成27年10月から始まった「医療事故調査制度」では、具体的に、どのような事故が発生した場合に報告をしなければならないのですか?
1 報告義務が課せられる場合とは(入口の問題)
前回の医療法務の知恵袋(12)で告知しましたとおり、今回は、医療事故調査制度(以下「事故調」といいます。)の入り口部分にあたる「医療事故」についてお話します。
事故調では、「医療事故」に該当する場合に限り、医療機関に医療事故調査・支援センター(以下「センター」といいます。)への報告を義務付けていますが(医療法第6条の10)、そこでいう「医療事故」とは、具体的には次のような事故のことをいいます。
①医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる「死亡」又は「死産」の場合で
かつ
②当該病院の管理者が当該死亡又は死産を「予期しなかった」場合
前者の①は、例えば病院施設の火災等が原因となって患者が死亡した場合などは「医療に起因する」「起因すると疑われる」とは言えないため、事故調の報告義務の対象外となる、といった感じの話となります。
問題は②の「予期しなかった」場合という部分です。
2 「予期しなかった」場合とは
この「予期しなかった」場合について、医療法施行規則第1条の10の2第1項では、病院の管理者が次の㋐~㋒の3ついずれにも該当しないと認めた場合と定めています。
㋐医療従事者から患者に対し、当該医療提供前に、当該死亡又は死産が予期されていることを説明したと認められる場合
㋑医療従事者が、当該医療提供前に、当該死亡又は死産が予期されていることを診療録等に記録していたと認められる場合
㋒医療従事者からの事情聴取等の結果、管理者が、当該医療従事者において、当該死亡又は死産を予期されていたと認められる場合
要は、今回の医療に従事していた医師等において、医療行為の前から、今回の患者の死亡・死産が、リスクとして予期されていた場合、ということになるでしょうか。
例えば、死亡するリスクのある手術中の事故により患者が死亡したような場合は、「予期しなかった」場合には当たらないでしょう。
他方、例えば輸血過誤、薬剤過量投与、機器の誤操作といったケースは、まさに医療従事者が患者の死亡・死産を「予期しなかった」場合といえ、報告義務の対象となるでしょう。
3 それでも「予期しなかった」か否かは判断に迷う?
以上のとおり、医療法及び施行規則は、一定程度、「予期しなかった」場合について具体化させていますが、それでも、やはり医療機関側としては、果たして今回のケースが「予期しなかった」場合に当たるのか否か、現場で判断に迷われることが多いと思います。
実際にも、平成27年10月1日~31日までの最初の1カ月間のセンターへの問い合わせの中でも、この「予期しなかった」場合該当性に関する問い合わせが相当多かったとの報告もあります(※)。
そもそも前述しました「予期しなかった」場合に関する医療法施行規則が、「次の各号のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの」といった評価概念をもって要件を定めていること自体からして、現場の医療機関がその判断に苦慮することは、容易に想定されます。
そのため、医療機関としては、医療事故該当性の判断に際しては、センターへの電話相談は勿論のこと、医療事故の疑いが生じた場合は、可能な限り院内での医療安全委員会といった組織を迅速に開催し(そのために、日頃からそういった委員会を迅速に開催できる組織づくりが必要となります)、そこで協議したうえで結論を出す、といった形で判断プロセスに客観性を持たせることが重要となります。
当事務所では、医療事故該当性判断にあたってのアドバイス業務は勿論、上記のような院内の医療安全委員会に外部委員として関与し、医療機関の皆様のコンプライアンス向上に向けた活動にも積極的に取り組んでいきます。
※センターにおいても、そのような事態を想定して、電話相談体制をとっています。詳しくは、一般社団法人 日本医療安全調査機構のHP等をご参照ください。
弁護士 髙橋 健