韓国「個人情報保護法施行令」の一部改正に関する立法予告

1 はじめに
 
韓国の個人情報保護委員会は、2022年2月9日、「個人情報保護法施行令」(以下、「施行令」といいます。)の改正案に関する立法予告を行いました。
 
行政機関が行う「立法予告」とは、韓国の行政手続法第41条に定められている手続であり、法令等を制定・改正または廃止しようとする場合は、原則として、当該立法案を策定した行政庁がこれを予告しなければならないというものです。法案の内容と趣旨を知らせ国民の意見を求める手続であり、日本での意見公募手続(パブリックコメント)制度(行政手続法第6章)に類似するものです。
 
2 改正理由
 
今回の施行令改正案の改正理由について、立法予告では、
 

ブロックチェーンなど新技術発展環境に適合するように個人情報の破棄方法に関する規定を改善し、デジタル新産業の育成を支援し、軽微な違反行為と制裁の実効性が弱い場合、課徴金・過怠料を減軽または免除できる基準づくりとともに、専門機関への出捐根拠を明確にしようとするものである

 
と言及されています。
 
3 改正内容
 
(1)新技術特性による破棄方法規定の改善(案 第16条第1項第1号改正)
 
現行の施行令16条第1項は、「個人情報処理者は、法第21条により個人情報を破棄するときは、次の各号の区分に従った方法でしなければならない」と定め、同項第1号に、「電子的ファイル形態の場合:復元が不可能な方法により永久削除」と定めています。
 
立法予告によれば、近時、新技術の発展により、伝統的な方法では個人情報を永久に削除することが困難な場合が発生しているため、既存の破棄方法に対する改善の必要性が生じていました。今回の改正案は、ブロックチェーンなど技術的特性により、永久削除が著しく困難な場合として、韓国個人情報保護法第58条の2に該当する情報(匿名情報)として処理して復元が不可能になるように措置する方法を追加するというものです。
 
韓国個人情報保護法第58条の2に該当する情報として処理するということは、時間・費用・技術等を合理的に考慮する際、他の情報を使用してもこれ以上個人を識別することができない情報として処理することを意味します(同条参照)。
 
(2)出捐事業の委託根拠整備(案 第62条第3項 改正)
 
現行の施行令62条第3項では、柱書において「保護委員会は次の各号の権限を韓国インターネット振興院に委託する。」と定め、同項第1号で、「法第13条による個人情報保護に関する教育・広報」と定めています。
 
改正案では、柱書について、「韓国インターネット振興院又は専門性があると認められ、保護委員会が定め告示する専門機関に委託することができる」とし、同項第1号についても、教育・広報にとどまらず、「機関・団体の育成及び支援」を含めています。
 
また、第6項から第8項も新設されており、
・「法第7条の8第6号による個人情報保護に関する法令・制作・制度・実態等の調査及び研究支援」(第6項)
・「法第14条による国際協力施策実施に必要な事項」(第7項)
・「法第28条の3による結合専門機関の指定、取消し、管理・監督等に必要な支援」(第8項)
などが定められています。
 
立法予告によれば、急変するデジタル技術の変化により、個人情報保護の分野別特性に応じた専門機関に業務を委託する必要性が増加しており、 韓国インターネット振興院等に予算を出捐する事業に対する法的根拠を明確にするため、委託根拠を整備し、専門機関を多様化できるよう告示に委任根拠を設けるものとされています。
 
(3)課徴金・過怠料の制裁基準整備(案別表1・別表1の3・別表1の5・別表2改正)
 
立法予告では、課徴金・過怠料賦課時において、違反行為が軽微にとどまる場合等にも、現行では、1/2範囲内の減軽のみが規定されており、免除規定がないことから、新型コロナウィルスなどで経済的な困難を経験している中小企業・小商工人等に対する減軽及び免除根拠の整備が必要であるとされています。
 
そこで、改正案では、課徴金算定時違反行為の程度、経済状況などを総合的に考慮できるように現行課徴金算定手続きに「賦課徴金決定」手続きを新設し、小商工人・中小企業などの一部法定告知事項の欠落など軽微な違反行為がある場合、過怠料賦課を免除できる根拠を設けるものです。
 
法務法人(有)世宗(SHIN&KIM)の2022年2月21日付のニュースレター(「「個人情報保護法施行令」の一部改正案の立法予告」(https://www.shinkim.com/jpn/media/newsletter/1725?page=0&code=&keyword=))では、課徴金の減免に関連する具体的な事項については、今後の「個人情報保護法規違反に対する課徴金賦課基準」に規定されるものと見られ、その具体的な減免事由は、個人情報保護委員会の2021年9月9日付「軽微な違反行為に対する制裁基準」に規定されている情報通信サービスの提供者等の軽微な違反行為に対する課徴金の未賦課基準と類似する水準で決定されるものと予想されると言及されています。
(ただし、同ニュースレターでは、現在国会において議論されている「個人情報保護法」二次改正案では、課徴金規定の適用対象を情報通信サービス提供者から個人情報処理者へと拡大し、課徴金上限額の基準を「違反行為と関連する売上高の100分の3」から「全体売上高の100分の3」に変更することを内容としており、今後、関連事業者の課徴金・過料に対する負担が緩和され得るか否かについては、同改正案の議論内容によって異なってくるという点に留意するよう注意喚起されています)
 
4 終わりに
 
今回の改正案についての意見は、2022年3月21日まで、国民参加法センター(http://opinion.lawmaking.go.kr)を通じたオンラインでの提出、又は、意見書の個人情報保護委員会への提出の方法で募集されています。
 
今回の改正案は、現在韓国の国会において議論されている「個人情報保護法」の二次改正とは別途のもので、現行の「個人情報保護法」体系において至急改正が必要な事項を中心に推進されたものですが、今後個人情報保護法本体についても改正内容がより具体化されていくものと思われますので、新しい情報が入り次第共有させていただきます。

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