日本酒の韓国への輸出について(1)

1.はじめに

いきなりで恐縮ですが、私はお酒をよく飲みます。その中でも、日本酒は好きなお酒のうちの一つで、当事務所が日本酒で有名な伏見区に所在していることもあり、日本酒の海外進出についても関心があります。そこで、本稿より、数回にわたり、日本酒の韓国への輸出に関して、その概要や留意点について、簡単にご紹介したいと思います(参考文献:ジェトロ農林水産・食品部、国税庁酒税課「日本酒輸出ハンドブック-韓国編-」2018年3月(以下、「ハンドブック」といいます。))。

 

2.韓国の日本酒マーケット

ハンドブック3pによれば、日本からの韓国向け日本酒の輸出量は増加傾向にあり、2017年の輸出量は4,798kリットルでした。これは、2007年の日本酒輸出量と比べると4.5倍、2012年と比べると1.7倍に増えているとのことです。2017年時点で、日本酒の世界輸出(金額)に占める韓国のシェアは、約20%となっています。

韓国での報道によれば、日本が韓国をホワイト国(輸出優遇国)から除外すると発表した2019年7月以降、日本のビールについては、10月までの4カ月間で輸出されたのは5億480万円分で、前年同期の31億4188万円に比べて84.0%も減少したとされています(「韓国の日本不買運動が停滞中?日本ビールの輸出は壊滅的も、他の酒類は増加も」スポーツソウル日本版、2019年12月28日)。

これに対し、同報道では、「日本で「日本酒」と呼ばれる清酒の韓国輸出額は、10月250万円から11月2364万円に増えた。」として、日本酒については、いわゆる日本製品の不買運動の影響が緩和されていることが伺える情報もあります。

ハンドブック3pでは、日本式居酒屋などの人気上昇にともない、外飲み市場での清酒の認知度が高まっているとの指摘があり、今後も引き続き韓国国内での日本酒の人気は根強く残っていくのではないかと予想されます。

 

3.日本から韓国への日本酒の流通構造

韓国へ日本から輸入される日本酒の流通経路は、生産者→卸売(輸出)業者→輸入卸売業者→(卸売業者)→小売業者/飲食店→消費者が一般的な構造となります。韓国内での酒類の流通に関しては、4,で述べるようなさまざまな規制が存在し、コストアップの要因となっていると指摘されます。コスト削減を実現するためには、流通構造と規制内容を十分に理解した上で、流通構造を見直した際に実際にコスト削減できるのかを試算してみることが重要となります(ハンドブック4p)。

 

4.韓国における種類の取扱いに関する規制

(1)運送に関する規制

まず、輸入業者または卸売業者からの配送には、「酒類運搬許可」を受けた車両による配送が義務付けられています。この酒類運搬許可の要件を満たす車両は4車種程度に限られており、さらに同許可を受けた車両は酒類以外のものを積載することが禁止されています。酒類を宅配便や郵便によって配送することも禁止されており、そのため小売店へは卸売業者による直接配送が一般的です(ハンドブック4p)。

具体的な根拠規定は以下の通りです(一部抜粋)。

・韓国国税庁「酒税事務処理規程」第71条(取引確認及び運搬)

第2項 酒類を販売するときは、取引相手方の営業所まで運搬、引き渡ししなければならない。ただし、酒類卸売業者やスーパー・チェーン店本(支)部等、仲介業者は、酒類の製造業者から直接酒類を運搬することができる。

第4項 酒類製造業者と酒類輸入業者は、「貨物自動車運輸事業法」に基づいて許可を受けた貨物自動車運送事業者又は貨物自動車運送加盟事業者(以下「物流企業」という。)を利用して、酒類を運ぶことができる。この場合、酒類製造業者と酒類輸入業者は酒類輸送履歴を保管・管理しなければならず、次の各号に適合しなければならない(以下省略)

(2)決済に関する規制

決済に関しても厳しい規制があり、酒類卸売の決済は酒類購入専用カードで行うことが義務付けられています。そのためカード決済用の通信端末機を用意する必要があります。月締めで決済する場合には、決済のたびに直接店舗を訪問しなければならなりません。

酒類カードの制度は、酒類の流通秩序の確立を望む酒類業界が自主的に実施している制度であり、取扱銀行の選定、代金決済システムの構築などの業務も酒類業団体が主催しているものであるとのことです。そのため、法律による規制自体は存在せず、前述の酒税事務処理規程139条第4号の「地方国税庁長と税務署長は、管内酒類卸売業者(特定の酒類卸売業者を除く)にとって酒類購入専用カードの使用実績が向上されるように行政指導することができ」る旨の規定が関連する規定として存在するものの、同規定に違反した場合の罰則自体は存在しません。

ただし、同規定では、「地方国税庁長と税務署長は、酒類購入専用カード等のカード使用実績、酒類電子税金計算書の提出内訳、酒類流通情報システムなどを分析し、不誠実な疑いがある者については、酒類の流通過程の追跡調査対象者に選定することができる。」とされており、酒類購入専用カードの使用状況によっては、税務調査の対象に選定される可能性はあります。もっとも、税法を遵守した取引を行っているのであれば、大きな問題はないかと思われます。

(3)酒類取扱いに関する免許

ハンドブックの5pによれば、以下の通り、酒類取扱いに関する免許の規制があります。

・①輸入(酒類の輸入と自社が輸入した商品の卸売り)、②輸出(韓国内で購入した酒類の輸出)、③卸売(韓国内で購入した酒類の卸売り)、④小売(酒類の小売販売を許可するもの)の4つの免許がある。

・日本では、多くの酒類卸会社が、酒類のほかに食品も扱うことで、同じ取引先(飲食店など)に販売する商材を増やし、相対コストが軽減される仕組みになっているのに対し、韓国では、上述のように専業が義務付けられており、酒類のみで、すべての運営経費を賄う必要がある。

・上記③の酒類卸売免許については、新設が認められておらず、人口当たりの免許件数が地域ごとに決められている。人口増加や廃業によって、新規発行免許の公募が行われることもあるものの、競争率は相当高い。

・スーパーマーケットや飲食店が直接輸入し、店舗に卸すことができれば、マージンなどのコストを削減できると思われる。2012年2月には酒税法施行令の改正があり、酒類輸入業と酒類小売業の兼業が認められた。しかし、この改正で認められた小売業は、純粋に酒類のみを販売している小売業であって、スーパーマーケットや飲食店は除外されている。

・韓国における酒類の販売・流通チャンネルは、酒類流通免許のある1次問屋を必ず経由しなければならない。そのため、他の食品群と異なり、大型チェーンスーパー、チェーンスーパーなどの大型小売チャンネルへ直接的に流通することができない。

5.終わりに

以上の通り、韓国への日本酒の輸出については、ニーズ自体は現在も存在するものの、日本国内と異なる規制が存在するため、事前にその内容をしっかりと把握した上で、展開をしていく必要があります。次回も引き続き、日本酒の韓国への輸出に関する概要をご説明したいと思います。

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