集団訴訟制度及び懲罰的損害賠償制度の適用対象拡大に関する立法予告

第1 はじめに

韓国では、現在、①証券分野において限定的に集団訴訟制度が導入されており、②製造物責任法、個人情報保護法及び特許法のような個別法において懲罰的損害賠償制度が一部認められています(たとえば、「特許法」や「不正競争防止および営業秘密保護に関する法律」では、特許権および営業秘密を故意に侵害した場合、侵害による損害として認められる金額の3倍を超えない範囲まで賠償額を認定する制度が設けられています)。

そのような中で、2020年9月28日、①分野の制限なく、被害者50人以上のすべての損害賠償請求へと拡大して適用する旨の集団訴訟法制定案と、②産業領域などの区分なく、すべての商人(法人又は事業者)の故意又は重過失のある商行為に対して懲罰的損害賠償を認めようとする内容の商法改正案がそれぞれ立法予告され、40日間の意見聴取の手続きが進められました。以下、簡単に概要について紹介します。

第2 集団訴訟法の制定案に関する概要

今回の立法予告では、新たに、集団訴訟法の制定が予告されました。主な内容は以下に紹介する3つですが、集団訴訟法は遡及適用が可能とされており、同法が施行される場合には、集団訴訟法施行前の事実を理由とする訴訟についても集団訴訟が可能となりうる点は注意が必要です。

①訴訟前証拠調査制度

関連訴訟を定期した後から適用が可能となるアメリカのディスカバリー制度とは異なり、関連集団訴訟の構成員であることを主張する申請人が、当該集団訴訟の訴えを提起する前でも、集団訴訟で争われるべき事実に関する一定の証拠について、証拠調査を申請することができる内容となっている点が特徴です。

② 資料等提出命令の特例

証拠保全義務の対象が、文書以外の情報を含む「資料等」に拡大されています。また、正当な理由なく提出命令に従わない場合、当該違反者に対しては当該資料等の記載、内容が存在するものと推定でき、また、例えば、資料等で証明する事実を他の証拠をもっては証明できない場合等の追加事情がある場合には、裁判所が当該資料等により証明しようとする事実に関する主張を真実と認めることもできるとされています。

③ 国民参加裁判制度

集団訴訟法では、集団訴訟の代表当事者が集団訴訟許可の決定があった一審事件において、国民参加裁判に従うことを請求できるものとなっています。国民参加裁判において、裁判所が陪審員の評決結果と異なる判決を言い渡す場合には、判決書にその理由を記載しなければなりません。ただし、アメリカの陪審制度とは異なり、国民参加裁判制度による評決に裁判所は拘束されないとされています。

第3 懲罰的損害賠償制の拡大に関する概要

今回の商法改正案では、すべての「商人」(法人又は事業者) に対し、すべての「商行為」を理由とした懲罰的損害賠償制度の導入が検討されています。前述の集団訴訟法とは異なり、同商法改正案には遡及効果はなく、当該改正案施行後に行われた行為についての損害賠償請求について適用があるとされています。

商法改正案は、懲罰的損害賠償の請求額を、当該法人又は事業者の故意若しくは重過失行為により生じた損害の5倍を超えない範囲としています。懲罰的損害賠償額を定める際に裁判所が考慮する要素は次の通りです。

ⅰ 故意及び重過失の程度、ⅱ 当該結果として発生した損害の程度、ⅲ 被告が当該行為により得た経済的利益、ⅳ 被告の財産状態、ⅴ 被告が当該行為により刑事処罰又は行政処分を受けた場合には、その処罰又は処分の内容及び程度、ⅵ 被告が被害救済に向けて行った努力の程度

今回の改正案は、適用範囲が広く、賠償額の上限も高いため、今後企業活動に関する訴訟についての負担が大きくなることが予想されます。今後同改正に基づきどの程度の損害賠償金額が認定されるかは、改正法施行後の先例の蓄積を待つ必要がありますが、訴訟提起前の事前の紛争予防や和解・調整・仲裁等の紛争解決方法を活用すべき必要性がより高まることが予想されます。

第4 終わりに

今回ご紹介した二つの改正案は、いずれも第21代国会の重点推進法案に含まれているため、成立・施行される可能性自体は高いと思われますが、意見聴取手続等を経て、今後、内容が変更される可能性もあります。引き続き動向を注視したいと思います。

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