韓国におけるフランチャイズ規制について
第1 はじめに
韓国においては、「加盟事業取引の公正化に関する法律」(以下、「加盟事業法」といいます。)という法律があり、比較的フランチャイザーに厳しい(フランチャイジーを保護する)内容が含まれています。以下、加盟事業法の概要についてご紹介いたします。
第2 加盟事業法の適用対象となる「加盟事業」の要件
同法における「加盟事業」とは、加盟本部(加盟事業に関連して、加盟店事業者に加盟店運営権を付与する事業者。フランチャイザーにあたります)が加盟店事業者(加盟事業に関連して、加盟本部から加盟店運営権を付与された事業者。フランチャイジーにあたります)をして自己の商標、サービス標、商号、看板、その他の営業標識を使用して一定の品質基準又は営業方式により商品(原材料及び副材料を含む)又は役務を販売せしめるとともに、これに伴う経営及び営業活動等に対する支援、教育及び統制をし、加盟店事業者は営業標識の使用並びに経営及び営業活動等にかかる支援、教育の対価として加盟本部に加盟金を支給する継続的な取引関係をいうとされています(加盟事業法第2条1号~3号)。
ただし、
①加盟店事業者が加盟金の最初の支払日から起算して6ヶ月の間に加盟本部に支給した加盟金の総額が、100万ウォン以内の範囲内において大統領令で定める金額を超過しない場合
または、
②加盟本部の年間売上額が2億ウォン以内の範囲内において大統領令で定める一定規模未満である場合(ただし、加盟本部が契約を結んだ加盟店事業者の数が5以上の範囲内において大統領令で定める数以上である場合は徐く)
には同法の適用が除外されるという規定があります(加盟事業法3条。この場合であっても、虚偽の情報提供等に関する加盟事業法9条、加盟金の返還に関する加盟事業法10条の規定は適用されます)。
上記の定義からは、ある事業が加盟事業法の適用対象となる「加盟事業」にあたるかどうかについて、以下の要件が導かれます(参照:法制処(日本の内閣法制局に該当)「探しやすい生活法令情報 フランチャイズ(加盟契約)」)。
①加盟本部が加盟店事業者に営業標識の使用を許諾していること
⇒営業標識については商標登録しているか否かにかかわらず、第三者が独立して認識することができる程度で足りるとされています。
②加盟店事業者が一定の品質基準や営業方法に応じて商品又は役務を販売すること
⇒加盟本部が加盟店事業者の主な事業と無関係な商品等だけ供給する場合には、加盟事業ではありません。
③加盟本部が経営及び営業活動等に対する支援、教育、統制を遂行すること
⇒加盟本部の営業方針に従わなかった場合何らの不利益がなければ加盟事業ではないとされています。
また、韓国の公正取引委員会では、「加盟事業法の適用対象ではない場合」として、「“相当な”統制・支援及び教育を行わない場合」が挙げられ、具体例として、ⅰ 加盟本部が加盟店事業者に対し商標法による商標権を保護するために商標使用の統制のみを行う場合(ライセンス契約等)、ⅱ 加盟本部が加盟店事業者に対し法令や条例、規則等に定められた保健・安全上の制限に関する統制のみを行う場合、ⅲ 加盟本部が加盟店事業者に対し事業資金調達のための支援のみを行う場合が挙げられています(http://www.ftc.go.kr/www/contents.do?key=314)。
④営業標識の使用及び経営・営業活動等に対する支援・教育の対価として加盟金が支給されること
⇒加盟本部が加盟店事業者に卸売価格以上で品物を供給する場合も加盟金の支払いに該当します。加盟事業法2条6号では、「加盟金」とは、「名称や支給形態のいかんを問わず、次の各項目のいずれかに該当する対価」をいうとして、
ⅰ 加入費、入会費、加盟費、教育費、又は契約金等、加盟店事業者が営業標識の使用許諾等、加盟店運営や営業活動に対する支援、教育等を受けるために加盟本部に支給する対価
ⅱ 加盟店事業者が加盟本部との契約に基づいて許諾された営業標識の使用及び営業活動等に関する支援、教育、その他の事項について、加盟本部に定期的に又は非定期的に支給する対価であって、大統領令で定めるもの
などが定められており、大統領令である加盟事業取引の公正化に関する法律施行令3条2項1号では、
「加盟店事業者が商標使用料、リース料、広告分担金、指導訓練費、看板類賃借料・営業地域補償金等の名目で、定額又は売上額・営業利益等の一定比率で加盟本部に対し定期的に又は不定期に支払う対価」と定められています。
ⅲ その他、加盟希望者又は加盟店事業者が加盟店運営権を取得し又は維持するため加盟本部に支給するあらゆる対価
などが規定されています。
⑤継続的な取引関係
⇒一時的にサポートするだけの場合は、加盟事業ではありません。
第3 加盟事業法に基づくフランチャイズ規制の内容
加盟事業法によるフランチャイズ規制の具体的内容としては以下のものがあります。
①他国の法律と同様に、加盟本部に、加盟店事業者への情報開示を要求しています(加盟事業法7条)。開示項目については、法および大統領令によって詳細に記載をされており、日本の中小小売商業振興法、同施行規則などによって要求されるものと近い内容の開示が求められていますが、韓国では、この情報開示書面を公正取引委員会に登録することが求められている(加盟事業法6条の2)点で、日本との違いがあります。なお、登録内容に虚偽があったり、 記載不備があったりした場合には営業中止の処分などが下るケースがあり、実際に処分された事業者も存在しているので、注意が必要です。
②加盟本部は、この情報開示書面を交付してから14日(ただし、弁護士もしくはフランチャイズコンサルタント(詳細は後述)が関与している場合には7日)の間、加盟店事業者候補者に対して契約を締結するように求めたりしてはならないとされており(加盟事業法7条3項)、これは熟考期間として機能しています。
③加盟金(Initial Fee)の支払いについては、加盟金預託制度ともいうべき制度が存在しており(加盟事業法6条の5)、加盟本部は直接加盟店事業者から加盟金を収受することができず、一旦預託機関に預託された後、加盟店事業者が店舗を開店した旨を預託機関に書面通知しない限り加盟金がフランチャイザーに入金されない仕組みになっています。万が一、店舗開店前に加盟本部側に違法行為(不実情報開示など)があった場合には、加盟金は加盟店事業者に返還され、契約は解除される旨が法定されています。このため、加盟本部はノウハウ開示を先行し、後日何らかの理由により契約が解除されてしまった場合には、ノウハウ開示の対価としての加盟金を収受できない結果になるなどの不利益が考えられます。このため他国の制度で存在するクーリングオフのケースと同様に、この場合には、ノウハウの漏洩を防止するための一定の工夫が必要になります。
④韓国法で特徴的と言えるのは、フランチャイズコンサルタント制度と紛争解決制度です。フランチャイズコンサルタント制度は、法によって国家資格のフランチャイズコンサルタント(文献によっては「フランチャイズ取引士」などと訳されるケースもあります。)が存在しており、彼らが契約締結時に関与する場合には熟考期間が7日間に短縮されることとなります。また、加盟事業法は、フランチャイズ取引専門の紛争解決機関を設定しており、Franchise Dispute Mediation Council(フランチャイズ紛争調停委員会)が公正取引委員会の下に作られ、フランチャイズ取引専門の調停を行っています(加盟事業法16条以下)。
⑤加盟事業取引契約が締結され加盟店事業者が営業を開始すると、加盟本部は一連の不公正な取引方法を行うことが禁じられます(加盟本部が他の事業者にさせる場合も含む)。例えば、加盟事業者に対して商品やサービスの供給、営業支援などを不当に中断、拒絶するなどの行為(不当な取引拒絶禁止(加盟事業法12条1項1号))、加盟店事業者が扱う商品やサービスの価格、取引先、取引地域を不当に制限したり、加盟店事業者の事業活動を不当に拘束する行為(拘束条件付取引の禁止(加盟事業法12条1項2号))、取引上の地位を不当に利用して加盟事業者に不利益を与える行為(加盟事業法12条1項3号)などがこれにあたります。
⑥加盟事業取引は、加盟契約期間の満了によって終了しますが、加盟店事業者が加盟契約の更新を求める場合、加盟本部は原則としてこれを拒絶できません(更新を求めることができる最長期間は、最初の加盟契約期間も含めた全体で10年を超えない)。契約更新を拒絶できる事由がある場合、加盟本部は、書面でこれを通知しなければなりません。また、加盟本部が更新拒絶や契約条件の変更を加盟事業者に対して書面で通知しない等の場合は、契約満了前と同じ条件で再び加盟契約を締結したものとされます(以上につき、加盟事業法13条)。一方、加盟店事業者に契約違反がある場合、加盟本部は契約を解除することができます(加盟事業法14条)。ただし、加盟事業法14条によれば、加盟本部は契約解約の際は、必ず2ヶ月以上の猶予期間を置いて、契約の違反事実を具体的に明らかにし、これを是正しなければ契約を解約するという事実を、書面で2回以上通知しなければなりません。
第4 終わりに
以上、韓国におけるフランチャイズ規制についてご紹介しました。韓国では、現行法でも規制が不十分であり、より実効性のある規制を設けるべきだとの議論もなされており、今後も頻繁な改正が見込まれます。加盟事業法の改正に関する情報を入手次第、改めてご紹介させていただきます。