韓国独自の賃貸借類似制度-伝貰(チョンセ)について

1.はじめに

 

韓国の民法は,日本と類似する点が多いのですが,中には,韓国独自の制度もあります。今回ご紹介する「伝貰」(チョンセ)という制度もその一つで,韓国独自のユニークな賃貸方式です。以下,簡単にその内容についてご説明します。

 

2.伝貰とは

 

日本であれば,入居前に敷金・礼金と(最近では敷金,礼金がないところもありますが),初月の家賃を支払い,以降,毎月家賃を支払うのが一般的ですが,韓国の伝貰では,入居時にまとまった金額を保証金として家主に払い,退去時に全額返還してもらうという形を取り,毎月の家賃を支払うことはありません。家全体を借りる場合の保証金の額は,住宅価格の約6~7割程度とされています(大韓貿易投資振興公社(KOTRA)発行「2019韓国生活ガイドブック」52ページ)。

 

韓国民法303条1項は,「伝貰権者は,伝貰金を支払って他人の不動産を占有し,その不動産の用途に従い仕様・収益し,その不動産全部に付き後順位権利者その他債権者より伝貰権の優先弁済を受ける権利を有する」と定めています。

 

すなわち,伝貰権者(日本の賃貸借契約にいう賃借人的立場)には,伝貰権設定者(日本の賃貸借契約にいう賃貸人的立場)に伝貰金を寄託してその者の不動産を占有し,その不動産の用途に従い使用・収益する権利があり,伝貰権設定者はその寄託された伝貰権の利息に該当する金員をその不動産の使用料(賃料に該当)に充当させます。伝貰契約の終了の時には,伝貰権者は伝貰権設定者に対して,その不動産を変換すると同時に,その者に帰宅していた伝貰金の返還を,その不動産全部に対する後順位権利者その他債権者に優先して受ける権利があります。もし,伝貰権設定者が伝貰金の返還を遅らせたときは,伝貰権者は民事執行法の定めるところにより,伝貰権の目的物の競売を請求することができます(民法318条)。

 

3.伝貰権の概要

(1)物権であること

伝貰権は物権であるため,新所有者その他第三者に対抗できる絶対的・排他的効力があり,伝貰権者は伝貰権設定者の承諾を得ずに伝貰権を他人に譲渡または担保に供することができます。また,その存続期間内に目的物を転伝貰または賃貸することもできます(民法306条)。

 

(2)伝貰権の存続期間

民法312条1項では,土地に関しては最短存続期間の定めはなく,最長存続期間10年という定めが設けられており,当事者間で合意した期間が10年を超えるときは,この期間が10年に短縮されるとされています。建物に関しては,存続期間を1年未満と定めたときは,これを1年とすると定められています(同条2項)。

存続期間の更新については,「伝貰権の期間はこれを更新することができる」(同条3項前段)という定めしかなく(更新期間の最大は10年(同項後段)),伝貰権設定者が期間更新を拒絶した場合は,これに対処する手段は設けられていないという問題があります。

 

(3)伝貰権増減請求権

民法312条の2には,伝貰金が目的不動産に対する租税・公課金その他負担の増減又は経済事情の変動により相当でなくなったときは,当事者は,将来に対して,その増減を請求することができるという定めがあります(ただし,増額の場合には,大統領令が定める基準に従った比率を超えることができないとされています)。

 

(4)伝貰権終了時の処理

伝貰権者は,伝貰権が消滅したときは,現状回復義務を負い,附属物買受請求権を有します。

伝貰権者がその存続期間の満了により消滅したときは,伝貰権者はその目的物を現状に回復しなければならず,その目的物に附属させた物は収去することができます。

ただし,伝貰権設定者がその附属物の買受けを請求したときは,伝貰権者は,正当な理由なく拒絶することができません。この場合に,その附属物が伝貰権設定者の同意を得て附属させたものであるときは,伝貰権者は,伝貰権設定者に対して,その附属物の買受けを請求することができます。その附属物が伝貰権設定者から買受けたものであるときも同様です。(以上,民法316条)

 

4.終わりに

 

今回は,日本にはない韓国独自の賃貸借類似制度である伝貰について簡単に説明しました。今後も,日本と韓国の法制度の様々な違いについて,ご説明していきたいと思います。

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