交通事故事件の送致先について~地方検察庁or区検察庁

  • 武田 雄司
  • 刑事事件

■ポイント


1.送致先については、管轄区域ごとに検察官による振り分け基準が設定されており、各地域で振り分け基準が異なる。

 

2.地域差がありうるものの、人身事故(過失運転致傷罪)については、傷害の程度が概ね3週間以下の事故については、区検察庁に送検される運用がなされている。

 

3.地域差がありうるものの、道路交通法違反事件は原則として区検察庁に送検される地域が多いと思われる。一方、その例外として、酒酔い運転や無免許運転については地方検察庁へ送検される地域が多いと思われる。

 

第1 はじめに


同じような交通事故でも、ある事件は地方検察庁へ送検され、ある事件は区検察庁へ送検され、どのような基準で振り分けられているのか一見するだけでは判然としません。

 

そこで、今回は、この振り分け基準について見ていきたいと思います。

 

第2 管轄区域ごとに検察官による振り分け基準の設定

 

この事件の振り分け基準について、法律で明確な区分がなされているのかというと、結論としてはそのような法律はありません。

 

これらの振り分け基準は、刑事訴訟法第193条第1項に基づく、検察官から司法警察職員に対する一般的指示の一内容として定められる「捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則」の一つとして定められることになります。

 

そのため、各地域や法律の改正状況によって多少差異が発生しうるところです。

 

参考例:


A.平成26年11月18日付け道本刑第2266号

「札幌地方検察庁検察官及び札幌方面管内の区検察庁検察官に送致(付)する事件の基準について」

 

B.平成13年12月21日付け広刑総第935号他

「事件の送致(付)基準について(例規通達)※広島地方検察庁」

 

第3 交通事故関係事件の振り分けについて

 

第2記載の参考例における、交通事故関係事件の振り分け基準は次の通り設定されています(※罪名が現在の法律と異なる点がありますが、そのまま抜粋しています。)。

 

1.区検察庁送致事件


① 業務上過失傷害及び重過失傷害(刑法第211条。過失運転致傷等事件に係る司法警察職員捜査書類基本書式例の特例が適用される事件に限る。)【A.1(2)キ】

 

② 過失傷害(刑法第209条)。ただし、自転車運転又は自動車等のドアの開放に起因する過失傷害事件(簡約特例書式適用事件)に限る。 【B.第1、2(6)】

 

③ 自動車運転過失傷害(刑法第211条第2項)。ただし、司法警察職員捜査書類基本書式例の特例が適用される事件に限る。 【B.第1、2(7)】

 

④ 道路交通法違反【A.1(3)二】

 

⑤ 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条に係る過失運転致傷(過失運転致傷等事件に係る司法警察職員捜査書類基本書式例の特例が適用される事件に限る。)【A.1(3)フ】

 

⑥ 特別刑法犯のうち、選択刑として罰金以下の刑が定められている事件 【B.第1、3】

 

2.地方検察庁送致事件


① 区検送致事件以外(※過失運転致傷罪の中でも、司法警察職員捜査書類基本書式例の特例が適用されない事件)

 

② 裁判員裁判対象事件(危険運転致死傷罪等)

 

3.通常の人身事故の場合の振り分け基準~司法警察職員捜査書類基本書式例の特例が適用される事件か否か

 

参考例として挙げた札幌及び広島では、共に、通常の人身事故の場合の振り分け基準として、「司法警察職員捜査書類基本書式例の特例が適用される事件」か否かが挙げられています。

 

それでは、「司法警察職員捜査書類基本書式例の特例が適用される事件」とは具体的にはどのような基準なのでしょうか。

 

この点、明確な大もとの規定を確認できておらず、かつ、地方によっても差異がありうるところではあるものの、概ね傷害の程度が3週間以下の軽微な人身事故(+一定の要件をみたすもの)とされているようです(「警察によるITS」〔1998年11月1日発行・警察庁交通局監修〕3-3、交通事故事件捜査〔24頁〕)、平成18年10月20日付け宮本地第第1061号「『地域警察官の行う事件事故の処理範囲と基準』と運用上の留意事項について(通達)」)。

 

以上から、傷害の程度が概ね3週間以下の人身事故については、区検察庁に送検される運用になっているものと思われます。

 

4.道路交通法違反被疑事件の振り分けについて

 

第2の参考例の「A.平成26年11月18日付け道本刑第2266号」(「札幌地方検察庁検察官及び札幌方面管内の区検察庁検察官に送致(付)する事件の基準について」)では、道路交通法違反被疑事件については、全て区検察庁へ送検する分類がなされていましたが、C.平成12年12月12日付け例規(交指・駐対)第44号「交通違反特例書式取扱要領の制定について」(千葉県)においては、酒酔い運転、無免許運転等の事件は適用対象外とされています。

 

近時、酒酔い運転や無免許運転に対しては、法律の改正も含め、明らかに厳格に対応されるようになってきたことから、単純に道路交通法違反被疑事件というだけでは、区検察庁へ送検されるとは限らないと考えておく必要がありそうです。

 

以上

(弁護士 武田雄司)