物損当て逃げの慰謝料
一般的に,物損事故では慰謝料が発生しないと考えられており,これも,被害者の実感と裁判実務の大きな隔たりのある部分で,私は常々おかしいやろと思っています。正直,自分だったら,少しの怪我をして何回か医者に通うより,買ったばかりの自動車を凹まされてその修理でえらい時間を取られて,その後「事故車」に乗っているという気分にされたり,代車の関係で手間を食ったり,ひいては大車両全額は損害賠償してもらえないとか言われて腹立たしい思いをしたりする方がよっぽど慰謝料払えと思いますし,怪我の場合との比較はちょっと措くとして,自動車や自転車を損傷させられて,警察対応とか修理対応で多大な時間を取られることの慰謝料くらいは支払われるべきだと思いますね。
でも,裁判実務,示談折衝実務では,一般的には,「原則として」「物損に慰謝料はナシ」です。そして,「例外的に」,自動車が家に突っ込んで家の居住者に非常に大きな不安を与えた場合とか,親族の形見の自動車を修理不能なほどに損壊した場合など,著しい,異常な物損の場合だけ,慰謝料を請求できるいうのが諸判例の立場です。
しかしながら,興味深い判例がありまして,京都地裁平成15年2月28日判決は,当て逃げをされた物損事故の被害者が加害者を突き止めたという事例で,「被告(加害者)の態度の悪質性」で心痛を受けたとして「慰謝料として10万円」を認めたのです。
この判例は,原則は物損事故では慰謝料の発生を認めないという従前の判例の立場を維持しつつ,その例外の幅を拡大するものと評価できると思います。物損でも被害者は相当に心身ともに疲弊するという実態をきちんととらえた至極真っ当な判断だと思います。
弁護士 牧野誠司