評価損について

  • 武田 雄司
  • 訴訟裁判

■ポイント

1.一般論としては、「修理しても外観や機能に欠陥を生じ、または事故歴によって商品価値の下落が見込まれる場合には認められる」との考えが有力。

2.裁判例としても、「被害車両の現在価格が事故前のそれに比べて低減していることが認められる場合」には、「その差額を」損害=評価損(格落ち損)として認める裁判例は多い。

3.加害者側の反論(買い替え予定等がない場合については、減価があるとしてもそれは潜在的・抽象的な価格の減少にとどまり、同額の現実の損害が発生したものとは認められない)に備え、事故前後の中古車の価値を査定をする等、経済的価値(市場における商品価値)が事故前に比べて現に低減していることを立証する資料をしっかりと準備しておくことが重要。

第1 はじめに

交通事故に遭い、車両が損傷を受けた場合、修理費が賠償の範囲に含まれることの他に、評価損(格落ち損)が認められるでしょうか。

第2 裁判例等による考え方

1.一般論

一般論としては、「修理しても外観や機能に欠陥を生じ、または事故歴によって商品価値の下落が見込まれる場合には認められる」との考えが有力な考え方といえます。

裁判例としても、次のとおり判示する裁判例が存在し、「被害車両の現在価格が事故前のそれに比べて低減していることが認められる場合」には、「その差額を」損害とすべきと一般論を述べて、評価損(格落ち損)を損害として認めています(また同趣旨の判示をする裁判例は少なくありません。)

■平成8年1月31日/東京地方裁判所/判決/平成6年(ワ)25687号[交通事故民事裁判例集29巻1号188頁]

「車両が事故によって損傷した場合、当該損傷部分について修理がなされたにもかかわらず原状回復が困難であるときには、修復し得なかった部分によって自動車の走行性能や耐用期間、安全性、外観等がどのような影響を受けるかという観点から、事故前の被害車両の価値と事故後のそれとの差額をもって損害として評価すべきであることはいうまでもないが、当該損傷部分が修理によって原状に回復したときであっても、事故後の被害車両の現在価格が事故前のそれに比べて低減していることが認められる場合には、その差額をもって損害と評価するのが相当であると解される。なぜなら、原状回復が実現したとしても、それは自動車としての使用上の機能が回復し、従前と同様の使用上の価値を回復したというにとどまり、現在価格、すなわち経済的価値(市場における商品価値)が事故前に比べて現に低減していることが認められるのであれば、それはまさに損害として加害者に負担させるべきものであって、被害者側で受忍することは衡平の観点から相当でないからである。」

2.注意点

 

2.1 加害者側の反論

 

評価損を損害として認める要件とされる、「被害車両の現在価格が事故前のそれに比べて低減していることが認められる場合」であるか否かに関し、加害者側から、次のような①~③を理由に、減価があるとしてもそれは潜在的・抽象的な価格の減少にとどまり、同額の現実の損害が発生したものとは認められないという反論がよくなされるところです(実際に、平成5年4月15日/大阪高等裁判所/判決/平成4年(ネ)1038号等ではそのような判断がなされているところです。)。

① 被害車両を買い換える計画はなかったこと

② 近い将来に被害車両を転売する予定もなかったこと

③ その他、評価損を減価を現実の損害として評価するのを相当とする事情はないこと

2.2 被害者側の対応

しかしながら、買い換えるか否か、転売するか否かは被害者の自由であって、事故歴自体が現実の中古車市場においてはマイナス評価されることは経験則上明らかですし、要素上記裁判例が判示するとおり、経済的価値(市場における商品価値)が事故前に比べて現に低減しているのであれば、まさに損害として加害者に負担させるべきものであって、被害者側で受忍することは衡平の観点から相当でないというべきでしょう。

被害者としては、修理業者等に依頼し、事故前後の中古車の価値を査定をする等、経済的価値(市場における商品価値)が事故前に比べて現に低減していることを立証する資料をしっかりと準備しておくことが重要となります。

2.3 買い替えを予定しない場合の評価損の注意点

もっとも、事案によっては、次のような事情は少なからず存在すると思われ、買い替えをしない場合に、どの程度まで評価損(格落ち損)が認められるかという点については、実際に評価損を認める裁判例においても、以下の①~④の事情から、買い替えをしない場合には控えめな算定をすべきと判示する裁判例もあり、これらの事情の有無については注意が必要です。

① 事故歴による経済的価値の低減に相当する金額を算定する前提となる減点評価の基準の合理的根拠が必ずしも明確ではない場合

② 登録年度、走行距離によっては、購入して間もない中古車とは異なり、使用上の価値のみならず、相当程度経済的価値も既に費消されていると考えられる場合

③ 下取りする等によって経済的価値(=市場価格)が具体化・現実化する予定が認められず、今後さらに使用上の価値が費消されると予想されるところ、そうなれば、被害車の市場価格そのものが修復歴の存在如何にかかわらず相当程度低くなると見込まれること

④ エンジン等自動車の中枢部分の状態(仮に良好であれば、マイナス要素になりづらい要素と評価されうる)

第3 まとめ

一般論としては、「修理しても外観や機能に欠陥を生じ、または事故歴によって商品価値の下落が見込まれる場合には認められる」との考えが有力であり、裁判例としても、「被害車両の現在価格が事故前のそれに比べて低減していることが認められる場合」には、「その差額を」損害=評価損(格落ち損)として認める裁判例は多いといえるでしょう。

しかしながら、加害者側からは、買い替え予定等がない場合については特に、減価があるとしてもそれは潜在的・抽象的な価格の減少にとどまり、同額の現実の損害が発生したものとは認められないなどという理由で、評価損の交渉が難航することはよくあります。

その際にも、しっかりと対応できるように、事故前後の中古車の価値を査定をする等、経済的価値(市場における商品価値)が事故前に比べて現に低減していることを立証する資料をしっかりと準備しておくことが重要となります。

以上

(弁護士 武田雄司)