入通院慰謝料について

  • 武田 雄司
  • 訴訟裁判
  • 慰謝料

■ポイント

1.入通院慰謝料の算定基準には、大きく分けて自賠責基準と裁判基準がある。

2.自賠責基準は1日あたり4,200円。慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内で決められる(例:実治療日数の2倍等)。

3.裁判基準には、①軽傷の場合、②通常の場合、③重傷の場合の3つの類型ごと一応の基準が設定されており、実治療日数にもよるものの、自賠責基準との差は大きい。

4.裁判基準としても、通院期間をカウントする一応の基準として、「通院が長期にわたり、かつ不規則である場合は、実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とする」という基準(月に8日~9日通院)が設定されている。必ずしもこの頻度で通院をしなければ一切通院期間を認定されないわけではないが、実際の通院期間分の慰謝料の請求が認められるためには、継続的に一定の頻度で通院をする必要がある。

第1 はじめに

保険会社から保険金の提案があったけど、慰謝料の金額が思っていた金額と比べて随分低かった…ということでご相談に来られるケースは少なくありません。

慰謝料の中にも、被害者がなくなった場合の「死亡慰謝料」、後遺障害が発生した場合の「後遺障害慰謝料」もありますが、この2つの慰謝料とは別に、怪我をし、一定期間入院及び/又は通院を余儀なくされたことによって発生する「入通院慰謝料」という慰謝料があります。

「慰謝料」の金額が低いと相談に来られるケースでは、大半がこの「入通院慰謝料」に関するご相談です。

本稿では、入通院慰謝料の算定基準について簡単に見ていきたいと思います。

第2 入通院慰謝料の算定基準

1.自動車損害賠償責任保険の保険金基準(自賠責基準)

自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責」といいます。)は、加害者が不明である場合や資力が全くない場合(任意保険に加入していない場合も含む。)においても、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立するため、自動車を運行するためには、必ず加入することが義務付けられている強制保険です(「自動車損害賠償保障法」第5条 正確には、「自動車損害賠償責任共済」に加入することでも自動車を運行することができ、支払基準は全く同じですので、「自賠責」と表記をして進めます。)。

そのため、まさに自賠責保険によって支払われる保険金は、最低限の基準であって、この基準が全て損害をまかなうものとは考えられていません。

自動車事故によって怪我をした場合、慰謝料も含めて、自賠責保険からは支払われる保険金は最大120万円と定められています(「自動車損害賠償保障法施行令」第2条第3号イ)。

そして、慰謝料の支払基準については、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)に基づき、次のとおり定められています。

※なお、当該支払基準については、厚生労働省が5年に1度公表する生命表による平均余命を用いており、最新の生命表に合わせた所要の改正が行われるものですが[平成22年4月1日改正]、慰謝料の支払基準に関する改正は現在のところありません。

■自賠責における慰謝料の支払基準

 

3 慰謝料

(1) 慰謝料は、1日につき4,200円とする。

(2) 慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする。

(3) 妊婦が胎児を死産又は流産した場合は、上記のほかに慰謝料を認める。

実治療日数にそのまま4,200円を乗じるのか、実治療日数を2倍するのか3倍するのかという点については、具体的な基準はなく、被害者の傷害の態様等を勘案して、治療期間の範囲内で定められることになります。

保険会社からまず提案がなされる時には、自賠責基準に基づき慰謝料の金額が提案されることが少なくなく、金額が少ないという感覚をお持ちになるケースでは、自賠責基準により(かつ、実治療日数が少ない場合にはなおさら)算定されているケースがほとんどです。

しかし、自賠責基準はあくまでも最低限の基準であって、この基準が全てではなく、裁判上は、概ね、入通院期間に応じて定められている基準に基づき、算定されることが多く、大きな差が生じることがしばしば見受けられます。

2.裁判基準

裁判上は、①軽傷の場合、②通常の場合、③重傷の場合の3つの類型ごとに、一応の基準が設定されています。

①軽傷の場合とは、むち打ち症で他覚症状がない場合等、軽度の神経症状の場合をいうと理解されています(「損害賠償算定基準」〔公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部〕2014年度版上巻154頁参照。いわゆる[赤い本]と呼ばれる毎年刊行される文献です。)。

また、③重傷の場合とは、「重度の意識障害が相当期間継続した場合、骨折又は臓器損傷の程度が重大であるか多発した場合等、社会通念上負傷の程度が著しい場合をいう」と理解されています(「交通事故損害賠償額算定のしおり」〔大阪弁護士会交通事故委員会〕17訂版11頁参照。いわゆる[緑本]と呼ばれる文献です。)。

いずれも、入院期間、通院期間の長さに応じて、一定の金額が設定されており、例えば通院6ヶ月間であれば、次の基準が設定されています。

①軽傷の場合:89万円

②通常の場合:116万円

③重傷の場合:150万円

※重傷の場合は、緑本記載の基準。軽傷の場合は、赤い本の別表Ⅱの基準を記載。通常の場合は、赤い本の別表Ⅰの基準を記載。なお、重傷でありながら、通院のみで治療を行なうことはケースとしては少ないと思われるものの、基準の比較のため掲げています。

傷害の程度によっても大きな差異が設定されていますが、1日あたり4,200円基準との比較でも、実治療日数が少ない場合には相当大きな差異が発生することになります。

もちろん、裁判基準としても、最初に1回、6ヶ月後に1回通院をするというように、全く通院をしていない場合には、そもそも通院期間を6ヶ月としてカウントすることはできません。

通院期間をカウントする一応の基準としては、「通院が長期にわたり、かつ不規則である場合は、実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とする」(赤い本2014年度版上巻154頁)、「通院が長期にわたり、かつ不規則である場合は、実際の通院期間(始期と終期の間の日数)と実通院日数を3.5倍した日数とを比較して少ない方の日数を基礎として通院期間を計算とする」という基準が記載されています(緑本17版11頁)。

この3.5倍基準は、概ね月に8日~9日程度通院をすることを想定した基準ではあり、仕事をしていると、なかなかこの程度の頻度では通院することは困難であることは多く、これよりも少ない頻度で通院してるケースでも、全期間を通院期間として認定してもらえることもありますが、裁判基準に基づき計算をする場合でも、やはり一定頻度、通院を継続することは必要になる点には注意が必要です。

また、慰謝料の金額も、一つの目安であって、症状によっては上下に振れる幅のある基準であることについても認識しておく必要があるでしょう。

以上

(弁護士 武田雄司)