弁護士費用特約を利用する場合の損害項目には弁護士費用が含まれるか?

  • 武田 雄司
  • 訴訟裁判
  • 因果関係

■ポイント

1.結論としては、弁護士費用特約を利用していても、損害項目に弁護士費用は含めるべき。

2.もっとも、その理由の説明方法については、裁判例でも2通りに分かれている。

①弁護士費用特約の仕組みから説明するパターン

②弁護士費用保険の保険金は保険料の対価であり、保険金支払義務と損害賠償義務とはその発生原因、根拠において無関係と説明するパターン

⇒①で説明することが理論的には正確と思われる。

第1 はじめに

マニアックな論点について書くこともしばしばありますが、今回は特に少しマニア度が高めのお話です。

弁護士費用特約を利用する場合、弁護士費用は、直接保険会社から担当弁護士へ支払われることが多く、外観上、被害者には弁護士費用分の損害が発生していないように見えることもあり、被害者の被った損害として損害項目に弁護士費用を含めるべきかという点が稀に問題とされることがあります。

そこで、弁護士費用特約を利用する場合の損害項目に弁護士費用が含まれるか?という問題について以下検討をしてみたいと思います。

第2 裁判例による考え方

■平成21年3月24日/大阪地方裁判所/判決/平成20年(ワ)12006号

「被告は弁護士費用が原告の加入する任意保険の弁護士費用特約保険金によって賄われている旨を指摘して、原告に弁護士費用相当額の損害は発生しない旨を主張する。しかしながら、この保険金は原告(保険契約者)が払い込んだ保険料の対価であり、保険金支払義務と損害賠償義務とはその発生原因ないし根拠において無関係と解されるから、被告の上記主張は採用できない。」

■平成24年1月27日/東京地方裁判所/判決/平成23年(ワ)9993号等

「仮に、原告甲野が自動車保険契約の弁護士費用特約を利用していたとしても、弁護士費用相当額の保険金は原告甲野の負担した保険料の対価として支払われるものであるから、原告甲野に弁護士費用相当額の損害が発生していないとはいえない。」

第3 結論

裁判例による考え方の結論としては、いずれも「含めるべき」という結論には変わりありません。

しかし、その理由の説明方法としては、次のとおり2通りに分かれます。

■その1:弁護士費用特約の仕組みから説明するパターン

弁護士費用特約は、概ね次のような特約が一般的であり、特約の性質上、損害項目の一つとして含めることは当然。

①弁護士費用を負担することによって被る損害に対して支払われる。

②保険会社は,原告が取得する弁護士費用分の賠償請求権に代位する。

③損害が発生した後に填補する仕組み。

⇒そのため,弁護士費用も損害とする必要がある。

■その2:弁護士費用特約で支払われる保険金と損害賠償義務は無関係であることを理由に説明するパターン

上述の裁判例のとおり、保険金は原告(保険契約者)が払い込んだ保険料の対価であり、保険金支払義務と損害賠償義務とはその発生原因ないし根拠において無関係であって、弁護士費用相当額の損害が発生していると説明されることになります。

以上のとおり説明方法は2パターンあるものの、「弁護士費用特約を利用する場合の損害項目には弁護士費用が含まれるか?」という論点に限っては、説明の差異だけであり、結論において具体的な差は生じません。

しかしながら、今回の論点は、次回記載する予定の、相手方から損害賠償の支払いを受け、支払いを受けた損害項目中に、明確に「弁護士費用相当額」が区分けされていた場合に、弁護士費用特約を利用して別途弁護士費用相当額を請求できるかという問題に大きく関連する論点であり、実務的には、和解をする場合に損害項目を明示するか否かにも関連する重要な論点となります。

この結論との関係でいえば、「弁護士費用特約を利用する場合の損害項目には弁護士費用が含まれるか?」という問題については、理論的には、■その1「弁護士費用特約の仕組みから説明するパターン」で説明することが正解と考えますが、その理由については次回のコラムで。

今回のコラムの、「弁護士費用特約を利用する場合の損害項目には弁護士費用が含まれるか?」という問題については、「当然含めるべき」という結論のみしっかりと頭に入れておきましょう。

以上

(弁護士 武田雄司)