自賠法3条の「運行によって」の意義

  • 玄 政和
  • 因果関係

加害者側である運行供用者に対する損害賠償責任を認める自賠法3条本文は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しており、同条に基づく損害賠償を請求するためには、「運行によって」生命又は身体への侵害が生じたこと(運行起因性)が必要となります。

 

同法2条2項は、同法にいう「運行」について、「人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。」と定義しています。

ここにいう「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」について、最判昭和52・11・24は、「自動車をエンジンその他の走行装置によって位置の移動を伴う走行状態に置く場合だけでなく、特殊自動車であるクレーン車を走行停止の状態におき、操縦者において、固有の装置であるクレーンをその目的に従って操作する場合をも含む」として、走行装置に限らず、自動車に固有の装置をその目的に従って使用する場合も含むという見解に立っています。

 

また、運行に「よって」とは、判例によれば、運行と事故との間に相当因果関係(原因行為と,それなしには生じないと認められる結果とのつながりが,社会生活観念上も,特異のことではなく通常予想できる程度のものであるという関係)が存在することをいいます。

 

上記の定義に基づけば、たとえば、駐停車中に開閉したドアが後方から進行してきた車両等に衝突した場合については、駐停車後のドアの開閉は、自動車に固有の装置を目的に従って使用することですので、「運行」に該当し、運行と事故との間の相当因果関係も認められるといえ、運行起因性が肯定されるといえます(東京地判平成15・6・24、東京地判平成16・2・27)。

 

また、走行中の車両から積載物が落下して発生した事故については、自動車に固有の装置を目的に従って使用している最中であり、「運行」に当たることはもちろん、事故との相当因果関係についても肯定されるものといえ、運行「によって」にあたり、運行起因性が肯定されます(東京地判昭和44・7・16、東京地判昭和45・1・23)。

 

走行中ではなく、駐停車中の荷積み又は荷下ろし中の事故については、運行起因性を否定した判例(最判昭和56・11・13)がある一方で、肯定した判例(最判昭和63・6・16)もあります。

 

以上のとおり、運行起因性に疑義がありそうな事案については、事案ごとの事情をもとに、個別具体的に判断する必要があります。

なお、「運行」に該当しないとされ、自賠法3条に基づく請求が認められない場合でも、民法709条に基づく不法行為責任の成立の余地がある事案もありますので、当該可能性についても検討してみることが必要です。