飼い主の注意義務

  • 野田 俊之
  • 訴訟裁判
  • 過失割合

以前,ペットが交通事故に遭った場合に,加害者に対して,どのような責任を追及することができるかについて,紹介させていただきました(「ペットが交通事故に遭ったら」参照)。

 

他方で,交通事故の発生について,飼い主の側にも過失がある場合,過失相殺によって,損害賠償額が過失の割合に応じて減額されることとなります(「過失割合・過失相殺とは」参照)。

 

例えば,名古屋高判平成20年9月30日交民41・5・1186は,飼い主の運転する車両に加害者が運転する車両が追突したことによって,飼い主の車両に乗っていた飼い犬が傷害を負ったという交通事故について,飼い犬の治療費や慰謝料等の損害賠償を認めましたが,他方で,下記の通り判示して,飼い主に1割の過失を認め,損害賠償額を減額しています。

つまり,「自動車に乗せられた動物は,車内を移動して運転の妨げとなったり,他の車に衝突ないし追突された際に,その衝撃で車外に放り出されたり,車内の設備に激突する危険性が高いと考えられる。そうすると,動物を乗せて自動車を運転する者としては,このような予想される危険性を回避し,あるいは,事故により生ずる損害の拡大を防止するため,犬用シートベルトなど動物の体を固定するための装置を装着させるなどの措置を講ずる義務を負うものと解するのが相当である。」と判示した上で,具体的な事案の解決としては,飼い主は,上記のような措置を講ずることなく,乗車の際,飼い犬を体を横に伏せたような姿勢で寝かせ,また,運転中には,助手席に座った飼い主の母が飼い犬の様子を監視するようにしていたにすぎないとして,飼い主に1割の過失割合を認め,損害賠償額を減額しています。

 

また,東京地判平成24年9月6日は,加害者が運転する車が,道路に飛び出した飼い犬を轢き,死亡させたという交通事故について,ペットの財産的損害や葬儀費,慰謝料等の損害を認めましたが,他方で,「犬が自動車等の接近に驚くなどして道路に飛び出すなどの事態は十分予想されるところであるから,被控訴人(飼い主)は,犬の飼主として,本件犬が本件道路に飛び出さないようにリードを手繰るなどの適切な処置を取るべき義務があるところ,これを怠り,本件事故を惹起させたものであるから,本件事故の原因は専ら被控訴人の過失にあると言わざるを得ない」として,飼い主に8割の過失割合を認め,損害賠償額を大幅に減額しています。

 

以上の通り,交通事故において,被害者の側にどの程度の過失が認められるかという点については,個別具体的な事案ごとの判断になりますので,画一的な基準を述べることは難しいですが,例えば,飼い主が公道でペットを散歩させる場合や,ペットを車に乗せる場合などには,社会通念上,飼い主の側でペットの行動をある程度コントロールすることが要求されているということができますので,具体的な事情によっては,大幅な過失相殺が行われる可能性があります。

飼い主の皆様には,まず第一に,大切なペットが交通事故に遭わないように,そして,万一,交通事故に遭ったときには,損害賠償が減額されることのないように,ペットを連れて外出されるときには,ペットの動静に注意していただきたいと思います。

 

弁護士 野田 俊之