親の責任

  • 野田 俊之
  • 逸失利益

お子さんが運転する自動車や自転車が交通事故を起こしてしまった場合,道義的責任は別にして,親が交通事故についての法的責任を負うことがあるでしょうか。あるいは,未成年者が運転する自動車や自転車の交通事故に巻き込まれた場合,その親に対して,損害賠償を請求することができるでしょうか。

 

今回は,このような未成年者が交通事故起こした場合の親の法的責任について,解説いたします。

 

1 民法714条の責任

 

民法714条は,「前2条の規定により,責任無能力者がその責任を負わない場合において,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。

そして,民法712条は,「未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない。」と規定しています。

 

この「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」のことを,法律上,責任能力と言いますが,民法712条及び民法714条の規定に基づき,交通事故を起こした未成年者が責任能力を有していないと判断された場合,親は,被害者に対し,当該交通事故についての損害賠償責任(監督義務者の責任)を負うこととなります

 

なお,一般に,12,13歳以上の未成年者については,責任能力を有していると判断されておりますので,未成年者が12,13歳以上の場合には,親が民法714条に基づく責任を負う可能性は低くなります。

 

2 民法709条に基づく責任

 

未成年者が責任能力を有していると判断された場合,親は,民法714条に基づく監督義務者の責任を負うことはありません。

 

しかしながら,この場合に,被害者が資力の乏しい未成年者に対してしか損害賠償請求をすることができないというのでは,被害者にとって酷な結果となります。

 

そこで,一定の要件を満たす場合には,親が,民法709条に基づく責任として,未成年者の起こした交通事故についての損害賠償責任を負うこととされています。具体的には,①監督義務者が相当の監督をすれば加害行為の発生が防止できたこと,②その監督を現実になし得たこと,③監督をせずに放任しておけば,当該加害行為が発生するとの蓋然性が一般的にも高い場合であったことという要件を満たす場合には,親が民法709条に基づいて,未成年者が起こした事故についての損害賠償責任を負うという判断が示されています(東京高判昭和52年3月15日等)。

 

3 自賠法3条に基づく責任

 

また,未成年者が事故を起こした場合であっても,親が自賠法3条による運行供用者責任に基づいて,当該事故についての損害賠償責任を負う可能性があります。

 

具体的には,①生計を親に依存しているなどの経済的依存ないし支援関係がある場合(最判昭和49年7月16日等),②保管場所が親と同一であるなどの維持・保管の関係がある場合(高松地判昭和54年11月22日等),③親の私用・業務に供されているなどの使用関係がある場合(名古屋地判昭和56年11月20日),④同居・扶養関係がある場合(名古屋地判平成11年6月18日)などに,親の運行供用者責任が認められております。