収入認定困難者の逸失利益
交通事故に遭われた場合,交通事故による逸失利益(死亡逸失利益や休業損害)を加害者に請求するためには,法律上,被害者の側に証明責任があるとされていることから,被害者の側で,交通事故がなければ得られたであろう収入が得られなかったことを証明する必要があります。
そのため,被害者が事故以前に現実に得ていた収入を証明することが困難な場合(例えば,被害者が個人事業主として収入を得ていたけれども,確定申告をしていなかった場合や過少申告をしていた場合などが考えられます)に,被害者が現実に得ていた収入を基に,逸失利益の賠償を請求するためには,信用性の高い客観的な資料による高度の証明が必要となりますので(東京地判昭和62年6月19日交民20・3・808参照),現実の収入に基づく逸失利益の賠償を請求することには相当の困難を伴います。
もっとも,このような場合であっても,被害者が平均賃金程度の収入が得られる蓋然性が認められれば,同世代の男女別の賃金センサスの平均賃金に基づいて算定される逸失利益の賠償が認められ,実際の裁判例においても,このような判断がなされています(高松地裁丸亀支判平成8年3月28日交民29・2・551等)。
そして,実際に当事務所が対応した事案においても,ご依頼者がある事業から収入を得ていたものの,確定申告をしていなかったため,収入に関する客観的な資料が存在しないという事案において,裁判外の交渉の中で,賃金センサスの平均賃金に基づく逸失利益の賠償を請求した結果,平均賃金の範囲で逸失利益の賠償が認められたケースがあります。
なお,このケースにおいては,ご依頼者が当座の資金を必要とする事情があったことから,急ぎ,加害者側の保険会社から,損害賠償金を取得する必要がありましたが,上述の通り,裁判例上も,最低限,賃金センサスの平均賃金に基づく逸失利益が認められることが明らかであることを前提に,加害者側の保険会社と交渉した結果,交渉開始から数日で,損害賠償の一部を支払っていただくことができました。
以上の通り,現実に得ていた収入を証明することが困難であっても,平均賃金に基づく逸失利益を請求することができる可能性があり,しかも,この通り平均賃金に基づく逸失利益の賠償が認められることを前提に,加害者との交渉を有利に進めることができる可能性があります。
弁護士 野田 俊之