人身傷害補償特約と和解条項
以前に、人身傷害補償特約についてご説明させて頂きました。
人身傷害補償特約とは、交通事故によって生じた損害(治療費や休業損害など)をご自身の保険で補填してもらえる特約のことです。(詳細は「人身傷害補償特約のメリット」をご参照ください。また、特約の詳細についてはご自身がご加入の保険内容をご確認ください。)
人身傷害補償特約による保険金のお支払については、もしご自身に過失があったとしても過失相殺(ご自身の過失割合に相当する損害が補償されないことです。)がされません。具体的な例をあげると、相手方に対して損害賠償請求の裁判を起こした場合、仮に判決でご自身の過失割合が40%と認定されたとすれば、相手方はご自身の損害のうち60%しか支払う義務を負いません。このとき、人身傷害補償特約を利用すれば、相手方から支払いを受けることのできない残り40%について、ご自身の保険会社から支払いを受けることができるのです(※金額についてはご自身がご加入の保険内容をご確認ください。)
ところで、裁判では判決によって解決する場合以外に、訴訟上の和解という方法で解決する場合が少なくありません。
訴訟上の和解とは、裁判所から勧告された和解案を、原告被告双方が受け入れた場合に、裁判所が和解調書を作成して終了する方法です。和解調書には、成立した和解内容を文章にした「和解条項」が記載されます。
さて、さきほどの事例で、ご自身の過失割合が40%であることを前提に、損害額の60%に相当する金額を相手方が支払うという内容の和解条項が記載されたとしましょう。この場合、人身傷害補償特約があれば、和解で支払われないことが確定した40%の損害について、ご自身の人身傷害補償特約を利用することができます。
しかし、ここで注意が必要です。それは、保険会社への連絡をスムーズにするためには、和解条項にご自身の過失割合と損害の内訳が記載されていることが望ましいということです。
単純に「被告(相手方です)は原告(ご自身のことです)に対して金●●円を支払う。」という条項だけでは、果たしてご自身の損害としてどのようなものがいくらの金額で発生したことが認定され、さらにそのうち何%がご自身の過失分として相手方からの支払いが受けられなかったのかが明確ではなくなるからです。その結果、本来であれば人身傷害補償特約でカバーされたはずのご自身の過失分に相当する損害額について正しく保険会社に理解されなくなる可能性があります。
このように、和解が成立する段階で気を抜いてしまうと、最悪の場合、せっかくの人身傷害補償特約が十分に利用できなくなるケースも考えられます。
裁判所から和解案を勧告された場合、和解を成立させる前に弁護士に内容のチェックをしてもらうことをお勧めします。
(弁護士松本政子)