自賠責保険からの支払いと遅延損害金について

  • 玄 政和
  • 異議申立て
  • 訴訟裁判

-交通事故による損害賠償債務の遅延損害金

 

交通事故は,民法上,不法行為(709条)としての性質を有しますが,不法行為による損害は,不法行為時に発生するとされていることから,損害賠償額全体(弁護士費用も含む)について,事故日から遅延損害金が発生するとされています。

 

-自賠責保険からの支払いと遅延損害金

 

昔の実務では,遅延損害金の請求にあたっては,被害者が自賠責保険から受領した被害者請求(自賠法16条1項)に基づく損害賠償額は,そのままの金額を元本から控除し,残額のみに対する遅延損害金を請求する形が取られていました。

 

しかし,平成12年の最高裁判例は,事故時から損害賠償額を受領した時点までの遅延損害金が消滅する理由はないとの考え方を採用しました(最判平成12・9・8金法1595号63頁)。これに対応して,実務でも,支払いを受けた金額を損害賠償請求債権の元本から控除するものの,支払いの時点までに発生済みの遅延損害金(確定遅延損害金)を別途請求する方式が一般化してきました。

 

その後損害賠償債権全額が払われていない以上,民法上定められた充当規定(民法491条1項)に基づいた元本への充当がなされるべきだという議論が強まり,最高裁は,被害者に支払われた金額について,遅延損害金にまず充当し,残額を元本に充当する法定充当を行うべきであると判示した(最判平成16・12・20判時1886号46頁)。

 

-実務上考えられる計算方法

 

以上を踏まえ,実務的には,以下の3通りの遅延損害金の計算方法が考えられることとなります。

 

・確定遅延損害金を別途請求する方式(①,②)

 

①自賠責からの損害賠償額の受領金額のみについて,受領日までの確定遅延損害金を計算して請求する。その後,元本額から損害賠償額をそのまま控除して,残りの元本に対する事故時から支払済みまでの遅延損害金を請求する。

 

②元本全体に対する自賠責からの損害賠償額受領日までの確定遅延損害金を計算して請求する。元本額から損害賠償額をそのまま控除し,損害賠償額の受領の翌日から支払済みまでの遅延損害金を請求する。

 

・法定充当する方式(③)

 

③元本全体に対する自賠責からの損害賠償額受領日までの遅延損害金を計算して自賠責からの支払いを充当する。残った額を元本から控除し,残元本に対する損害賠償額の受領の翌日から支払済みまでの遅延損害金を請求する。