交通事故のご相談は賢誠総合法律事務所まで

交通事故の知恵袋

未成年者の親の責任

-責任能力

 

民法712条は,未成年者が他人に損害を与えても,「その行為の責任を弁識するに足るべき知能」を具えていない場合は,損害賠償責任を負わないと定めています。この,「行為の責任を弁識するに足るべき知能」,能力のことを,「責任能力」といいます。

 

そして,民法714条は,この民法712条の規定により,未成年者に責任能力が認められず責任を負わない場合は,未成年者を「監督すべき法定の義務のある者」は,監督義務を怠らなかったこと,又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことを立証(証明)できない限り,未成年者が第三者に与えた損害を賠償する責任を負うことを定めています。

 

責任能力とは,自らの行為の責任を理解する能力であることから,その行為の内容,具体的状況,未成年者の個別の能力等により判断されるため,「何歳であれば責任能力がある」といった形で決まるものではありません。具体的な事例としては,

①自転車で歩行者に衝突して損害を与えた11歳7か月の女子の責任能力を否定した事例(大阪地判平成5・12・7),

②急に左折しようとした自転車を後方から追い抜こうとして衝突して前方自転車に搭乗中の被害者を死亡させた12歳11か月の男子の責任能力を否定した事例(岡山地裁笠岡支判昭和59・9・5)

がある一方で,

③駅の階段で先行する者にいきなり衝突して事故を起こした12歳9か月の男子の責任能力を肯定した事例(東京地判平成4・5・29),

④自転車同士の事故を起こした12歳9か月の男子の責任能力を肯定した事例(徳島地判昭和54・6・25)

があり,おおむね12歳程度,小学生以下が責任無能力者と判断される分水嶺ではないかと思われます。

 

-監督義務者の固有の責任

 

未成年者に責任能力が認められる場合,親に責任がないのかというとそうではなく,判例・通説は,未成年者の監督者であっても,不法行為についての一般的な規定である民法709条の要件を満たす場合は,親も固有の責任を負うとしています(最判昭和49年3月22日)。

 

どのような場合に固有の責任が認められるかについては,民法714条の要件ではなく,子どもが交通事故を発生させる具体的な危険性があるにもかかわらず親権者としてこれを放置した結果,事故が発生したという具体的な監督義務違反が必要とされています。たとえば,東京地判平成7・11・22は,普通車運転免許を有する未成年者の子が起こした事故について,親権者は,子の運転技術が未熟であったことを十分に知り,又は知り得たにもかかわらず監督義務を怠ったとして,被害者が損害賠償を請求したことについて,仮に子の運転技術が未熟であることを認識していたとしても,直ちに親権者が運転免許を有する子の運転を制止すべき監督上の義務があるとは言えないとして,排斥しています。

 

監督義務者の固有の責任としては,大きく3つの類型に分けて考えることができます。

 

①現認型

:親が子の運転する自動車に同乗して危険な運転を現認していながらこれを制止しなかったなど,監督が現実に可能な場合

②前科・前歴・補導歴型

:子に事故歴,スピード違反・飲酒運転歴等事故発生の蓋然性の高い前科・前歴・補導歴等があるにもかかわらず,子の運転を制止するなどの十分な配慮に欠けた場合

③体調不良等現認型

:高熱,飲酒,過労等,運転するには適切でない子の肉体的,精神的状態を認識できる状態であったにもかかわらず,子の運転を制止するなどの十分な配慮に欠けた場合

 

このような類型に該当する場合には,監督義務者の責任が認められる場合が多いと言えるでしょう。

Pagetop