財産分与と退職金

1 将来の退職金が財産分与の対象になるのか

財産分与請求権は、離婚した夫婦の一方が、他方に対して財産の分与を求めることができる権利です(民法768条)。そして、清算的財産分与については、「夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配」するものとされており(最判昭46年7月23日民集25・5・805)、婚姻中に夫婦の協力により取得した財産(夫婦の共同形成財産)が財産分与(清算)の対象となります。もっとも、将来の退職金は、財産分与を行う時点では、退職金の支払を受ける確実性や受給金額の見通しが困難なため、将来の退職金を①財産分与の対象とすべきか、②対象とする場合、分与する金額の算定方法と分与時期が問題になります。

2 ①財産分与の対象とすべきか

今日では肯定説をとる裁判例が多くなっており、例としては、東京高決平10・3・13家月50・11・81、東京地判平11・9・3判時1700・79等がございます。

肯定説の考え方は、退職金は給与の後払的性質を有するものであり、夫婦の協力によって形成した財産であるといえるため、「近い将来に受給し得る蓋然性」がある場合には、財産分与の対象とするべきであるというものです。

「近い将来に退職金を受給する蓋然性」があるか否かの判断については、定年退職までの期間、企業の規模や性質、勤務先の経営状況、勤続年数等を総合考慮の上、判断されています(東京地判平11・9・3判時1700・79等)。

3 ②分与額の算定方法と分与時期

分与額の算定方法と算定時期について決まったものがあるというわけではありません。

以下では、参考となる裁判例をご紹介いたします。

・財産分与審判に対する即時抗告事件において、将来給付を受ける退職金であっても、その支給を受ける高度の蓋然性が認められるときには、これを財産分与の対象とすることができるものと解するのが相当であるとして、抗告人(夫)が退職時に支給を受ける退職金のうち婚姻期間に対応する部分の4割を相手方(妻)が所得すべき額と定めた事例(東京高判平10・3・13家月50・11・81)

・高齢者の離婚に伴う財産分与において、将来夫が受給する退職金について、夫が退職金を受領した場合には、夫は妻に対して退職金の約2分の1相当の金員を妻に支払うべきであるとした事例(東京高判平10・3・18判時1690・66)

・夫が将来(6年後)取得する退職金は財産分与の対象になるとして、これを現在の額に引き直しした上、妻に対する清算金の支払を命じた事例(東京地判平11・9・3判時1700・79)

・将来の退職金を現存する積極財産として財産分与の対象とした上、退職金の金額は現時点で分与義務者が自己都合退職をした場合を基準として算定し、分与金の支払は将来義務者が退職金を受給した時点とするのが相当とした事例(広島高判平19・4・17家月59・11・162)

 

以上から、離婚を考えている場合に、配偶者の退職金が財産分与の対象外になることを避けるため、配偶者が定年退職するまで離婚の手続を留保する必要性は必ずしもなく、配偶者の勤務先や定年までの年数などから、近い将来に退職金を受給する蓋然性があると思われる場合には、現時点で離婚することを前向きに検討しても良いかと思われます。