オーストラリア訪問記(13)
シドニー「豪州労働法セミナー」開催
~2026年の豪州雇用法アップデートと日本法の視点~

今年最初のオーストラリア訪問として、2026年7月末、シドニーにて「豪州労働法セミナー」を開催いたしました。
まずは、毎度のことながら、出張中にご不便をおかけしましたクライアントの皆様、その他ご関係者の皆様に、深くお詫び申し上げます。
今回のセミナーは、シドニーのH&H Lawyers様と共同で行い、豪州法パートをH&H Lawyers様が、日本法パートを私が担当する、日豪二本立ての構成でした。
会場には、オーストラリアに現地法人を有する日系企業の皆様を中心に、25名程度の方々にご参加いただきました。
セミナー後の質疑やその後の交流でも、人事・労務のご担当者様ならではの具体的なご質問を多くいただき、このテーマへの関心の高さを肌で感じた次第です。
【今回のセミナー概要】
今回のテーマは、「豪州雇用法2026」。
2026年現在、豪州の労働法制は、大きな変革期の只中にあります。日本の親会社の感覚のままで豪州子会社の人事労務を運用すると、思わぬ落とし穴にはまりかねない、そんな改正が続いています。
他方で、日本側の労働法制も、負けず劣らず改正ラッシュが続いています。
そこで今回のセミナーでは、以下の4つのパートについて、豪州法と日本法の双方の視点でアウトラインを解説しました。本コラムでは、折角ですので、その概要を簡単にご紹介できればと思います。
(1)柔軟な働き方と在宅勤務
豪州では、一定の要件を満たす従業員に「柔軟な働き方(Flexible Working Arrangement)」の申請権が認められており、雇用主が対応を誤ると、Fair Work Commission(日本でいう労働委員会に近い政府機関)が介入し、在宅勤務等を認めるよう雇用主に命じ得る仕組みとなっています。
セミナーでは、在宅勤務をめぐって従業員側が勝った裁定例・雇用主側が守り切った裁定例の双方をご紹介いただきました。日本本社の「全員出社」の号令だけでは、豪州では通用しない等、日本法との比較の視点でも有益な内容となっておりました。
これに対し日本法では、在宅勤務を求める一般的な法定の申請権は存在しません(原則は会社の制度設計次第)。もっとも、改正育児・介護休業法(2025年10月施行)により、育児層についてはテレワーク等を含む「柔軟な働き方」措置の導入が義務化されており、例外的な義務化が進みつつある、という日豪対比をご紹介しました。
(2)心理社会的ハザード(メンタルヘルス)
豪州では、職場のメンタルヘルスの問題は、もはや福利厚生の問題ではなく、「心理社会的ハザード(Psychosocial Hazard)」として、物理的な労働安全衛生(WHS)と同様に、特定・評価・排除(最小化)のプロセス管理が法令上義務づけられています。違反には高額の罰金があり得るほか、取締役個人にも責任が及び得るという、まさに取締役会レベルの問題です。
日本法パートでは、日本の「労災認定+民事損害賠償(安全配慮義務違反)」で企業責任を問う構造をご説明するとともに、ストレスチェック義務が50人未満の事業場にも拡大されること(2028年4月施行予定)、そして日本特有の実務である休職制度の設計のポイントをご紹介しました。
(3)職場のいじめ・ハラスメント
豪州では、職場のいじめ(Workplace Bullying)やセクハラについて、Fair Work Actに基づく差止命令の制度や、雇用主に「セクハラを積極的に排除する義務」を課す法制度など、複数の法制度が重層的に適用されます。ひとつの社内クレームが複数の制度の問題になり得るため、苦情処理プロセスの設計と運用が極めて重要になります。
日本側では、いわゆるパワハラ防止法(労働施策総合推進法)に基づくパワハラの3要件、厚労省が定める6類型を踏まえつつ、会社が講ずべき措置のアウトラインをご説明しました。
(4)その他の重要な法改正
最後に、豪州側の近時の重要改正として、①意図的な賃金未払いの刑事罰化(Wage Theft・2025年1月施行)、②給与日から7営業日以内のスーパーアニュエーション(年金)拠出を義務づけるPayday Super(2026年7月施行)、③競業避止条項の制限(2027年以降見込み。具体的には未定。)の3つが取り上げられました。
日本側でも、上記の育児・介護休業法、2026年10月からカスタマーハラスメント対策が全企業に義務化されること、そして前述のストレスチェック義務拡大に加え、豪州で既に立法化されている「つながらない権利」に類似する制度まで、労働基準法の改正等が議論されていることをご説明しました。
日豪の制度は異なりますが、「柔軟な働き方」「ハラスメント」「メンタルヘルス」「労働時間規制」という大きな流れは共通しています。豪州に現地法人をお持ちの日系企業様におかれましては、日豪双方の動向をあわせてウォッチしていくことが重要です。
【余談(初めての冬のシドニー)】
ところで、これまでの訪問はいつも日本の春や秋(シドニーの秋や春)でしたが、今回は初めての「冬のシドニー」でした。
そして街のところどころで、クリスマスの文字が・・。聞くところによれば、オーストラリアでは、寒い冬のクリスマスを恋しがる人々のために、冬にあたるこの季節にも各地でマーケットやフェアが開催されるようです。
12月の真夏に、Martin Placeのど真ん中で、大変立派なクリスマスツリーを見た記憶が・・。
まあ、楽しいことなので年二回でもいいんでしょうかね(経済的にも潤うだろうし・・)。
今回、真夏の日本から到着した身には、朝晩の冷え込みが新鮮でしたが、日中は写真のとおりの青空。冬とはいえ、ランチタイムのMartin Placeには、変わらずたくさんのビジネスパーソンが行き交っていました。
今回も、観光地にはどこにも行けずじまいでしたが、それはもういつものことなので、諦めることにしています・・・。
最後に、今回、ご多忙のところセミナーへのご参加、面談や食事にお付き合いいただいたシドニー現地の皆様、そして貴重なセミナー開催の機会をいただいたH&H Lawyersの皆様、誠に有難うございました。

(我らがMartin Place・初めての冬バージョン)
【本内容は、執筆当時の情報をもとに作成しております。また、本コラムは、個別具体的な事案に対する法的アドバイスではなく、あくまで一般的な情報であり、そのため、読者の皆様が当該情報を利用されたことで何らかの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことができません。個別具体的な法的アドバイスを必要とする場合は、必ず専門家(オーストラリア現地法に関する事項は、オーストラリア現地の専門家(弁護士等))に直接ご相談下さい。】
【弁護士 高橋 健/ Lawyer Ken Takahashi】


