相続放棄の失敗例5選|弁護士でも間違えることはある?原因と対策も解説

相続放棄は一歩間違えると、家族や親族に多大な負担をかけるリスクがある重要な手続きです。
借金や負の遺産が残されている場合は相続を「しない」という選択が賢明なこともありますが、その判断や手続きにミスがあると、「借金を背負わされる」「他の相続人との関係が悪化する」といった深刻な事態につながります。
また、相続放棄はただ「放棄します」と言えば済む話ではなく、法律上の厳格なルールがあります。例えば、家庭裁判所に対する申述、3ヶ月以内という期限、遺産に手をつけないことなど、細かい条件が定められています。
万が一、これらの条件を満たさなかった場合は、「単純承認(相続を受け入れたとみなされる状態)」とされ、一切の放棄が認められなくなります。
この記事では、よくある失敗例とその原因、そして失敗を防ぐためのポイントを具体的に解説していきます。
1、よくある相続放棄の失敗例5つとその原因
相続放棄は、借金や金銭的トラブルから自分や家族を守るための有効な手段です。しかし、制度の理解不足や「なんとなく」で進めてしまったことによって、かえって不利益を被ってしまう人が少なくありません。
ここでは、実際によくある5つの失敗パターンと、その背後にある原因について詳しく解説します。
(1)相続放棄の期限(3ヶ月)を過ぎてしまった
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申述しなければなりません。1日でも遅れると原則として放棄は受け付けられません。
この失敗は「知らなかった」「手続きが間に合わなかった」という理由が多く、特に以下のようなケースで起こりがちです。
- 葬儀や遺品整理で慌ただしく、放棄の手続きを後回しにしていた
- 相続放棄の制度自体を知らず、期限を過ぎてから動き出した
- 相続開始後しばらく経ってから借金の存在を知り、そこから始めて動き出した
期限内であれば、調査期間の延長申請も可能なため、まずは早期の行動が何より大切です。
また、期間を過ぎてしまったと思われる場合でも、相続放棄が受理されるケースもありますので、一度弁護士に相談してみることも重要です。
(2)裁判所への申述申立をしていなかった
相続放棄を有効に成立させるためには、家庭裁判所への「申述」が必要です。親族に口頭で「放棄する」と伝えただけでは、法的には何の効力もありません。
よくある勘違いとして、
- 市役所に死亡届を出せば大丈夫だと思っていた
- 家族に伝えたから相続放棄ができていると思っていた
といった認識がありますが、これは大きな誤解です。相続放棄は、書面での手続きが必要であり、提出後に裁判所の審査・確認があって初めて正式に受理されます。
「言った」「思っていた」だけでは済まされないのが相続放棄の厳しさです。
(3)裁判所からの照会書に対応しなかった
申述書を提出すると、家庭裁判所から「照会書」と呼ばれる確認書類が送られてきます。これは、相続放棄の意思確認や、状況に関する簡単な質問に答えるものです。
しかし、この照会書を放置したり、内容にミスや不備があるまま提出してしまったりすると、手続きが中断され、申述が却下されてしまう可能性もあります。
- 届いた書類を読まずに放置した
- 書き方がわからず放置した
- 忙しさにかまけて期限を過ぎてしまった
こうした対応不足は非常にリスクが高いため、届いたらすぐに内容を確認し、必要に応じて専門家に相談するとよいでしょう。
(4)遺産に手をつけてしまい「単純承認」とみなされた
相続放棄をしようとしていても、相続財産に関与する行為をしてしまうと「単純承認(相続を受け入れた)」とみなされる場合があります。
たとえば、以下のような行動には要注意です。
- 預金を引き出して使ってしまった
- 被相続人の車の名義を変更した
- 遺品整理のつもりで家財を売却・処分した
これらは「放棄する意思があるのに相続人としての権利を行使した」と見なされ、結果として放棄ができなくなるリスクがあります。
遺品整理によって他人に迷惑を掛けないための善意の行為であっても、形式的には「相続を承認した」と判断される可能性がある点に注意が必要です。
(5)他の相続人に借金を押し付けてしまった
自身が相続放棄をすると、相続権は他の相続人に移ります。そのため、兄弟など他の親族に借金の責任を背負わせる結果となってしまうケースもあります。
さらに、その事実をきちんと伝えていなかった場合、以下のようなトラブルに発展する可能性があります。
- 親族宛に突然借金の請求書が届き「なぜ自分が借金の請求を受けるのか」と混乱する
相続放棄は、法律上は自分だけで完結することのできる手続ですが、一方で家族や親族との連携が重要な手続きであることを理解し、事前に情報共有しておくことが望ましいでしょう。
2、相続放棄の失敗を防ぐために知っておきたい5つの対策
相続放棄で失敗しないためには、制度の仕組みを理解したうえで「いつ・何を・どうすべきか」を明確にすることが不可欠です。
ここでは、実際によくあるミスを防ぐために知っておくべき重要なポイントを5つご紹介します。
(1)手続きは早めに動く(延長申請も視野に)
相続放棄の申述期限は、被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内です。これは非常に短く、気づいたら締切目前というケースも珍しくありません。
たとえば、「葬儀の対応で手が回らなかった」「故人に借金があると後でわかった」など、対応の遅れにはありがちな背景があります。万が一、3ヶ月では調査や判断が難しい場合は、家庭裁判所に『期間伸長の申立て』を行うことで猶予を得ることも可能です。
相続が発生したら、できるだけ早く行動に移すことが何よりの予防策です。
(2)財産調査を徹底する
相続放棄するかどうかを判断するには、「どんな財産(資産・負債)があるのか」を正確に把握することが重要です。特に、借金・連帯保証・未納の税金やローンなど、マイナスの財産が隠れている場合は注意が必要です。
調査には以下のようなものがあります。
- 銀行口座の残高証明や入出金明細
- クレジットカードやローンの利用履歴
- 消費者金融などの債権者からの請求書の有無
- 不動産の登記簿・権利証
これらの調査を怠ると、「放棄しなかったけど、後から多額の借金が出てきた」という事態にもなりかねません。
もっとも、相続放棄をするにあたっては、被相続人の遺産の内容を把握している必要があるわけではありません。「遺産にどういうものがあるかわからないけど、関わり合いたくないから放棄する」という選択をすることも可能です。
(3)遺産に手をつけない
相続放棄をするつもりでも、相続財産に手を加えると、「相続財産を処分した」として「単純承認」とみなされる恐れがあります。
たとえば、以下のような行動があると、相続放棄が認められない可能性が出てきます。
- 故人の預金を引き出して使った
- 遺品を売却・処分した
- 家を掃除して形見分けした
たとえ善意の行動であっても、相続放棄の前後で財産に関わることは控え、「完全に何も触らない」という意識が大切です。
(4)家系図レベルで相続関係を整理する
相続放棄をすると、相続人の地位が次順位の相続人である親や兄弟姉妹(ケースによっては甥・姪も)に移転します。そのため、自分が放棄したことで、次順位の親族に借金が引き継がれる可能性が出てきます。
親族との無用なトラブルを避けるためには、自分が相続人に該当するかどうかだけでなく、「次に誰が相続人になるか」「他に相続人はいるか」といった相続関係の把握も非常に重要です。
こうしたリスクを回避するには、以下のような対策が有効です。
- 法定相続人を把握する
- できれば相続関係図(家系図)を作って整理する
- 他の相続人と連携し、全員が対応できるよう調整する
(5)少しでも不安なら、弁護士に早めに相談する
相続放棄の手続きは、細かなルールが多く存在します。
「判断が難しい財産の扱い」「放棄したのに通知が届く」「他の相続人との調整が難しい」といった状況では、専門知識をもつ弁護士に相談することでトラブルを未然に防ぐことができます。
弁護士であれば、以下のようなサポートも一括して対応してくれる場合が多く、心強い味方となってくれるでしょう。
- 書類の作成・提出
- 照会書の回答サポート
- 家庭裁判所とのやり取り
- 放棄後の債権者対応
「大丈夫だろう」ではなく、「念のため確認しておこう」というスタンスが、失敗を避ける最善策です。
3、弁護士に依頼しても相続放棄が失敗することがある?
相続放棄は専門的な法律知識と手続きが求められるため、弁護士に依頼すれば「安心・確実」と考える方が多いのではないでしょうか。 実際、弁護士のサポートを受けることで、ミスやトラブルのリスクを大きく減らせるのは事実です。
しかし、弁護士に依頼したからすべて安心というわけではありません。
ここでは、弁護士に依頼した場合に、失敗やトラブルが起こることを防ぐために気をつけたいポイントを解説します。
(1)弁護士のミスや依頼者との連携不足による失敗
弁護士に相続放棄を依頼したとしても、万一、弁護士が書類の提出を忘れたり、照会書への対応が遅れたりすると、相続放棄が認められないという結果になってしまいます。
依頼者が「すべて弁護士任せ」で何もしなかった場合には、このようなミスやトラブルが発生するリスクが高くなります。
たとえば、以下のような状況ではトラブルになる可能性があります。
- 弁護士からの確認事項に返答しなかった
- 書類への署名・捺印を後回しにして期限が過ぎた
- 弁護士とのやり取りが滞ってしまい、状況を把握できなかった
弁護士側に問題があるケースもあるものの、弁護士に任せっきりにするのではなく、依頼者側の協力がないと、正確な申述や対応が難しいことを理解した上で、弁護士に依頼することが大切です。
【チェックポイント】依頼後に自分で確認すべき3つのこと
弁護士に依頼する際は、「丸投げ」ではなく「伴走する」意識を持つことが大切です。以下の3点は、最低限自分でも確認しておきましょう。
- 裁判所への申述が期限内に行われているか
→ 書類提出のスケジュールや実施状況を確 - 照会書の対応方法(誰が・いつ・どのように出すか)
→ 代理提出なのか、自分で対応するのか明確にす - 進捗状況が定期的に共有されているか
→ 月に1回程度でもよいので、メールや電話で状況を把
「依頼=安心」ではなく、「依頼+確認=成功」という考え方が、失敗を防ぐためには何より重要です。
(2)相続放棄に強い弁護士の選び方
依頼する弁護士の選び方も、成功と失敗を分ける重要な要素です。たとえば、以下のような事務所は注意が必要です。
- 相続放棄の実績が少なく、経験が浅い
- 手続きがマニュアル化されていて柔軟な対応ができない
- 費用が安すぎてサポート内容が限定されてい
安心して任せられる弁護士を選ぶには、次のような項目をチェックしましょう。
- 相続・遺産問題に注力している
- 相続放棄の実績が豊富である
- 相談時に丁寧にヒアリングしてくれる
- 疑問点にしっかり答えてくれ、手続きの流れも説明してくれる
- 費用や追加料金の見積もりを明確にしてくれ
一見似たように見える法律事務所でも、サポート内容には大きな差があります。特に相続放棄は「一発勝負」になりがちなため、最初の段階で信頼できる弁護士を選ぶことが最も重要です。
4. 相続放棄に失敗した場合の2つの対処法
相続放棄は法的なルールが厳格な制度であり、特に3ヶ月以内の申述期限を過ぎた場合には、基本的には放棄が認められなくなります。
しかし実際には、状況次第では例外的に救済される可能性もあります。ここでは、相続放棄を失敗してしまった後の対処法を2つご紹介します。
(1)裁判所に「合理的な事情」があったことを説明する
相続放棄の申述期限(3ヶ月)を過ぎてしまった場合でも、その期限を守れなかったことに対して「やむを得ない理由=合理的な事情」があると認められれば、家庭裁判所が相続放棄を受理してくれることがあります。
たとえば、以下のような事情がある場合に相続放棄が認められた例があります。
- 被相続人の死を知ったのが実際には最近だった(別居中・疎遠な関係だった)
- 相続財産の中に借金があることに気づいたのが期限後だった
- 精神的・身体的事情により手続きを進められなかった(入院・うつ症状など)
このような場合には、事情を客観的に証明できる資料(例:診断書、郵送物の到着記録、通帳の履歴など)とともに、これらの事情を記載した申述書を家庭裁判所へ提出することになります。
注意すべき点は、「知らなかった」だけでは不十分であることです。「なぜ知らなかったのか」「その後どのように行動したのか」といった時系列を丁寧に説明する必要があり、専門家の助言が必須となるでしょう。
(2)即時抗告をおこなう
もし相続放棄の申述が正式に却下された場合、その決定に対して不服があるときには「即時抗告」という制度を利用することができます。
即時抗告とは、裁判所の決定に対して上級の裁判所に異議を申し立てる制度で、「本来なら受理されるべきだった」「裁判所の判断に誤りがある」と考えるときに活用されます。
ただし、この手続きにはいくつかの制約があります。
- 抗告できる期限は、決定の通知を受け取ってから2週間以内
- 相続放棄が受理されるべき事情・法的根拠に基づいた抗告理由を記載する必要があるため、弁護士による対応が事実上必
即時抗告が認められれば、再度放棄の審査を受けられる可能性もありますが、認められるハードルは高いです。その分、迅速かつ正確な手続きが要求されるため、できるだけ早く専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄に関するよくある質問
(1)相続放棄の手続きは弁護士はどこまでやってくれる?
弁護士に依頼すれば、代理人として、申述書の作成、必要書類の案内、家庭裁判所への提出、照会書の回答支援など、一連の手続きをサポートしてもらえます。依頼内容によっては、家族間の調整や債権者対応のアドバイスも受けられるため、安心して任せられるでしょう。
(2)相続放棄の弁護士費用はいくら?
相続放棄の弁護士費用は一般的に3万〜10万円が相場です。ケースの複雑さや手続き範囲によって変わります。また、戸籍取得や書類のやり取りに関する実費が別途かかる場合もあるため、見積もり時に確認しておくと安心です。
(3)相続放棄したら死亡保険金や年金はどうなる?
相続放棄をしても、死亡保険金や遺族年金は多くの場合受け取ることが可能です。これらは相続財産ではなく、受取人固有の権利として扱われるためです。ただし、契約の内容や受取人の指定状況によっては例外もあるため、保険会社や年金機関への確認が大切です。
(4)相続放棄が却下されることはある?
相続放棄は家庭裁判所の審査を経て認められますが、却下されることもあります。よくある理由としては、期限切れ、照会書の未提出、遺産の処分行為がある、書類不備などです。
相続放棄の相談は賢誠総合法律事務所へ
当事務所は、全国から多数の相続放棄の依頼を受けており、確かな実績を有しております。
熟慮期間を経過していたり、他の事務所で難しいと言われたりした場合でも、是非一度ご相談頂ければと存じます。
必要戸籍一式の取り寄せから、各案件に応じた申述書の作成、裁判所とのやり取り、最終的な受理まで、全て代理人である弁護士にお任せいただけます。また、被相続人の債権者への相続放棄の通知対応も致しますので、ご依頼者様の精神的なご負担も大幅に軽減されることと思います。
費用につきましては、全ての実費込みで、お一人当たり一律6万6000円(税込み)です。追加費用は頂きませんので、安心してご依頼頂けるかと存じます。
相続放棄は是非、賢誠総合法律事務所にご相談ください。
まとめ
相続放棄は、ちょっとしたミスが大きなトラブルに発展する繊細な手続きです。期限の過ぎた申請、書類不備、遺産に手を付けるなど、思わぬところに落とし穴があります。少しでも不安がある方は、早めに専門家へ相談することが大切です。
2025.05.27野田俊之