事業再生・私的整理とは

事業再生・私的整理の概要

事業再生・私的整理の概要

事業再生とは,広い意味では,まさに事業の再生,つまり,事業の抜本的改革による収益構造の改変を意味します。しかし,狭い意味での事業再生とは,将来的に債務弁済ができなくなる可能性のある企業が,債務整理に関する何らかの対策を実施しつつ,事業の抜本的改革を実施し,企業の永続的な存続を図ることを言います。近時は,後者の意味で,事業再生という言葉が用いられることが多いように思われます。

そして,私的整理とは,事業再生の一手段として,裁判所を介在させた法的手続(会社更生手続や民事再生手続)によらずして,債権者との協議により,債務を整理するという手段を言います。私的整理手続は,後述のように,裁判所を介在させた法的手続ではないことから,法的には債権者をなんら拘束しない手続ですが,他方で,全ての取引先への支払いを禁じられることもなく,事業価値や経営者への社会的信頼をできるだけ維持して事業再生を図ることができるという側面があります。

したがって,当サイトにおいて,「事業再生・私的整理」と二つの言葉を並べて表現しているのは,「公正な私的整理という手段を用いて,事業を再生させること」という意味であるとご理解ください。

事業再生・私的整理を利用可能な企業

事業再生・私的整理を利用するための法的な条件(主体の制限)は特にありませんので,たった1名の零細企業であっても,従業員数百名規模の企業であっても,事業再生・私的整理を実施することは可能です。

メリット・デメリット

事業再生・私的整理を,他の法的な倒産手続と比較した場合のメリット・デメリットは以下の通りとなります。

破産との比較

破産と比較した場合,事業再生・私的整理には以下のようなメリット・デメリットがあります。

メリット
  • 事業再生・私的整理がわずかでも成功した場合は,破産をした場合に比べて,債権者の皆様に対し多くの弁済を実施することができる。
  • 事業再生・私的整理が成功した場合は,事業の社会的価値(従業員及びその家族をはじめとする関係者の生活維持,取引先との取引の維持,顧客へのサービスの提供の継続)を維持することができる。
  • 破産をした場合に比べ,その企業や経営者の信用の毀損が大きくなく,これまでの「のれん」や実績などの企業価値を維持しながら,今後の生活及び事業の再生に臨むことができる。
デメリット
  • 債権者の皆様のご理解とご協力が必要(破産手続をとった場合,金融機関をはじめとする債権者の皆様のご理解を得られなくても手続は進行します。)したがって,弁済の猶予をお願いする債権者の皆様との折衝が必ず必要となりますし,債権者の皆様から叱咤を受けることも多々あります。
  • 事業継続に伴う精神的・労務的負担は当然継続する。また,債権者による債権の実行が行われる可能性が否定できない不安定な状況が継続する。
  • 万一赤字事業を延命させてしまった場合は,結局取引先へのご迷惑を拡大させるだけになる(破産の場合はそれ以上のご迷惑をかけることはない。なお,当事務所では,このことから,黒字化が不可能と見られる企業からの事業再生・私的整理のご依頼はお受けいたしません)。

民事再生手続の比較

民事再生手続と比較した場合,事業再生・私的整理には以下のようなメリット・デメリットがあります。

メリット
  • 全ての取引先への弁済を停止する必要がないことから,企業の信用棄損を最小限に抑えることができ,その結果として,債権者への弁済額も増額できるとともに,事業再生も容易になる。
  • 数百万円以上の予納金が不要であり,その結果として,債権者への弁済額も増額できる。
  • 弁護士の着手金も比較的低額に抑えることが可能であり,その結果として,債権者への弁済額も増額できる。
  • 法定のルールがないことから,債権者の皆様への十分かつ適時の説明を実施すれば,柔軟な方法及びスケジュールによる事業再生が可能となる。
デメリット
  • 債権者「全社」のご理解とご協力が必要である(民事再生手続では,一部の債権者の同意がなくとも再生可能な場合があります)。
  • 債権の実行を止める手立てがない(民事再生手続では,債権の個別実行は原則として禁止されます)。
  • 裁判所の介在する公明正大な手続である民事再生手続と異なり,債権者が債務者を信用する担保が少なく,したがって,ご説明の方法を誤った場合,不透明な方法となってしまい,よって,債権者の皆様のご理解を得るのが困難となる。

ご依頼者においては,以上のメリットデメリットを考慮して,債務整理の手法をご選択いただくこととなります