スポーツ法務

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スポーツ仲裁の判断基準-特に,団体の裁量論について

弁護士 牧野誠司

スポーツの競技団体と,その団体に所属する個人との紛争の解決手段として,スポーツ仲裁という手続があることは以前の知恵袋で紹介しましたが,では,そのスポーツ仲裁は,どういった基準で,紛争を解決するのでしょうか?

 

この点については,日本スポーツ仲裁機構が定めるスポーツ仲裁規則http://www.jsaa.jp/sportsrule/arbitration/01_rule.pdfの43条に,以下のように定められています。

 

「スポーツ仲裁パネルは、競技団体の規則その他のルール及び法の一般原則に従って仲裁判断をなすものとする。ただし、法的紛争については、適用されるべき法に従ってなされるものとする。」

 

まぁ,この規定を簡単に言いますと,要するに,

「裁判官が判断するようにルールや法にのっとって判断します」

ということになりますね。

 

仲裁というのは,その判断がまるで裁判官の判断であるかのように当事者双方を拘束しますので,確かに,裁判官のような中立公正な見方によって判断しましょう,という考え方は一面では正しいでしょう。

 

しかし,裁判官が判断するように判断する,ということになると,スポーツ団体の内部の紛争なんかは,基本的に裁判官は,「内部の自治に任せるべ きであって,内部の決定者の判断が,異常におかしいよね,というときだけ,違法だと宣言しましょう」という考え方に立ちますので,スポーツ団体に有利な判 断ばかりがなされる可能性が高くなってしまうのではないかと思われます。つまり,スポーツ団体の判断については,「外部がごちゃごちゃ言うべきではなく,原則としては自主的な裁量に委ねましょう」という「裁量論」と言われるものです。

 

現に,日本スポーツ仲裁機構が公開している仲裁判断集 http://www.jsaa.jp/award/ を見ると,団体内部の判断を「裁 量の範囲内」であり,「著しく不合理で裁量権を逸脱していると言えない限り不当ではない」として,結局団体を勝利させている事案が相当数あるようです。

 

このような判断方法は,スポーツ団体の自主性を守るという意味では確かに正しい面もあるのでしょうけれど,国民の皆さんがスポーツ仲裁機構に求 めている仲裁というのは,果たしてそれでいいのであろうかという点は,悩ましいところだと思います。やはり,国民の皆さんは,「その判断が『裁量の範囲内 であったのかどうか』ではなく,『正当だったのかどうか』を知りたい」と思っているのではないでしょうか。その意味では,せっかく,スポーツ部門専門の仲 裁機関を作ったわけですから,もう少しだけ踏み込んで,せめて「スポーツ団体としてその判断や処分は妥当と言い得る範囲にあったのかどうか」という判断ま ではしてほしいような気がします。しかし,弁護士が仲裁人を務めている以上,団体側も,「法律のことは別にして,スポーツのことは仲裁人より我々の方が詳 しいでしょう。」と言いたくなるでしょうし,一般国民からしても,国民投票ならまだしも,弁護士が決めるなら,あまりおせっかいはしないでと考えるかもし れません。

 

結局のところ,問題になっている団体の決定や処分について,団体の内部自治に任せるべきかどうかということを,ケースバイケースで考えていくほ かないということかもしれません。しかし,仲裁人としては,安易に,「裁量論」に逃げるようなことはせずに,最終判断は別にして,できるだけ,当・不当の 「議論」は実施して,仲裁手続上の和解を試みるなど,柔軟な対応をしていただきたいところですね。

 

弁護士 牧野誠司

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牧野 誠司

弁護士牧野 誠司

どのような事件に対応させていただくときでも、「牧野弁護士に依頼して良かった」と言っていただけるよう、そのご依頼者のために最良の解決を目指して努力させていただくことを日々の指針としています。

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