スポーツ法務

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ミノ・ライオラは本当に悪徳代理人なのか―良い代理人とは?

弁護士 牧野誠司

スポーツ法務あるいはスポーツビジネスで最も多くのお金が動き,最も華やかな舞台のひとつである「移籍市場」。そこで活躍する代理人(エージェント)業について,この知恵袋でも何度か触れてきましたが,サッカーの移籍市場で最近もっとも巷をにぎわせている代理人は,ミノ・ライオラさんですね。

 

このライオラさん,最近荒稼ぎしていることもあって,えらく評判が悪く,「こんな代理人がいるからサッカー界がおかしくなっている!」などとまで言われています。悪徳代理人の象徴のように言う人もいますね。

 

では,ライオラさんは「悪徳代理人」なのか。悪徳=敏腕という意味なら,Yesでしょうが,悪徳=悪くて道徳心がない,という意味なら,間違いなくNOだというのが,私の意見です。理由は以下の通り。

 

1 まず,代理人は,分かりやすく言うと,「本人の代わりに嫌われてナンボ」の商売のはずです。もちろん,代理人が周りからの尊敬を集めることで,自分の依頼者の交渉地位を高めるということも必要ですから,周囲からの尊敬を集めつつ依頼者の利益を守れれば最高でしょう。しかし,そこでいう「周囲」は善良な人々とは限らず,特にビジネスの世界では「周囲」というのは自分の利益を最大化しようとするライバルなわけですから,それに好かれているようでは代理人としてダメでしょう。したがって,特に,金と力を持っている人たちからの悪評がたっているように見えるライオラさんは,「依頼者のためなら自分が嫌われたっていい」という代理人としての大原則を体現しているという意味で,原則を守ったしっかりした代理人だと言えます(弁護士でも,この鉄則とも言える原則を忘れて,裁判所や相手方,あるいは,強き者,あるいは世間といったものになびきがちですが,それが依頼者のためなのか,あるいは単なる保身なのかは,いつでも厳しくチェックしないといけません)。

 

2 他方で,ライオラさんのことを悪くいう「依頼者」は,見たことがありません。依頼者側からの悪評がふえてきたら,それは代理人としては黄信号ですが(これも弁護士も同じ),これだけ悪評が多いライオラさんも,依頼者からの悪評はほとんど見えないので,同じ代理人業をする者としては,さすがだなと思うわけです。つまり,相手方=クラブからの悪評が多く,依頼者からの悪評が少ないという,極めて原則的な,お堅い代理人と言えるでしょう。

 

3 また,ライオラさんは,「評判」だけではなく,その仕事内容を見ても,依頼者第一の姿勢を崩していません。今季はポグバの移籍金でとんでもなく稼いだようですが,他方で,イブラヒモビッチを「移籍金まさかのゼロ」で移籍させていることを世界は忘れてしまっているようです。イブラヒモビッチは,今年でパリサンジェルマンとの契約期間が満了し,違約金による縛りがなくなったわけですが,巨額の移籍金を発生させるためには,この違約金がまだ発生する契約期間中に,他のクラブに選手を売る必要があります。しかし,イブラヒモビッチについては,昨年であれば,巨額の移籍金を発生させて他のクラブに売ることもできたことは確実であるにもかかわらず,ライオラは昨年はそれをせずに,今年,タダでイブラヒモビッチをマンUに移籍させ,それによって,マンUでのイブラヒモビッチの年収等の条件を大きく上げたわけです。つまり,移籍金を発生させた方が自分は儲かるのに,イブラヒモビッチのライフプランや年収等の条件を優先してきちんと仕事を仕上げているわけです。依頼者>自分の大原則を仕事内容でも守っているわけですね。このことは,何もイブラヒモビッチに限ったわけではなく,ライオラさんが,「移籍金よりも選手の年棒を上げる」という方針でずっと仕事をしてきたことは,広く知られているところのようです。

 

というわけで,ライオラさんは悪徳代理人では(少なくとも今のところは)ないというのが,同じ代理人業をやっている私の見解です。特に,自分の利益とか,評判を犠牲にしても,依頼者の利益とか,評判を守ろうとしているところがかっこいいなと思いますね(無暗に相手にかみついて依頼者の評判まで落としている代理人もいますが,これは論外)。世界中からの尊敬を集めながら,自分の依頼者の利益を守れれば最高ですが,そんなことを実現するにはミラクルと言える諸条件が揃わないと無理ですし,そんなこと言っている人の多くは,眉唾ですからね。

 

他方で,依頼者と全く同化してしまう代理人も困ったものです。依頼者のために交渉したり,戦うことが大原則ではあるけれど,依頼者=代理人になってしまって,感情論までそのまま相手に伝えるような代理人は,無用な紛争まで巻き起こすことになるわけで,それもプロの代理人としてはどうかということになります。代理人は依頼者に共感しつつも,対外的には冷静に対応する必要がありますし,場合によっては依頼者を説得する必要もあるでしょう。その意味でも,ライオラ氏は,依頼者にも言いたいことを言うという関係を築けているようですし,すごい代理人なのでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PROFILE

牧野 誠司

弁護士牧野 誠司

どのような事件に対応させていただくときでも、「牧野弁護士に依頼して良かった」と言っていただけるよう、そのご依頼者のために最良の解決を目指して努力させていただくことを日々の指針としています。

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