スポーツ法務

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代理人は不要なのかーアンチェロッティの発言について

弁護士 牧野誠司

サッカー界のエージェント(代理人)や移籍市場に関する知恵袋シリーズの最後として,この題目を取り上げたいと思います(次回からまた別スポーツ法務の事項を検討したいと思います)。最後にふさわしい,根本的な題目ですね。

 

先日,バイエルンの現監督であるアンチェロッティさんが,以下のようなことを言ったという記事がネット上で掲載されました。

 

「彼ら(代理人)は必要のない存在だ。私の意見だがね。私は選手と直接話し合う。選手たちにも、なにか問題が起きたら、代理人を挟むのではなく、直接私にアプローチをかけてほしいと考えている」と持論を展開した。

「サッカー界の代理人はあまりにも力を持ちすぎていると思う。多くのクラブが代理人に権力を与えてしまっているんだ。だが、ファンたちは選手を観るためにスタジアムに来るんだ。サッカーで最も重要なのは選手なんだよ。代理人や監督じゃなくてね」

 

さて,このようなアンチェロッティさんの言葉は正しいのか,ということですが,結論としては,「そりゃ監督はその方が楽でしょうけど,選手からしたら代理人は必要でしょうね」ということになります。

 

今は怖いもの知らずで,王のようにふるまっているズラタンイブラヒモビッチも,若かりし頃,自分の移籍について「騙された」と,自著(とされている)「I Am Zlatan」の中で明言しています。それは,マルメというスウェーデンのチームから,オランダの名門アヤックスに移籍した際のことなのですが,自分の身の振り方をマルメのスタッフに任せていたところ,マルメはイブラヒモビッチの移籍金で莫大なお金を取得したのに,イブラヒモビッチのアヤックスでの給料は,アヤックスのチームメイトの中で最低だったということを知って愕然とした,ということでした。

 

これについて,イブラヒモビッチは,同著の中で以下のように述べています。

 

「世の中の仕組みってやつが,だんだんと分かってきたよ。代理人ってのは泥棒じゃねえ。代理人がいないとチャンスを逃す。代理人の助けがないと,ジャケットにネクタイをしめたヤツにごまかされるんだ。」

 

あのイブラヒモビッチさんが,こう言っている,ということが,端的に,代理人の必要性を示しているということにならないでしょうか。

 

実際には,世の中の,ジャケットにネクタイをしめた人たちの多くは良い人たちですし(笑),特に,日本のサッカー界,野球界では,チーム側も選手たちと良心的に話し合いをされています。しかし,やはり,世の中の人の多くは,自分の幸せ,自分の家族の幸せのために,自分の利益を優先する方向で動くことが多く,その場合,普段からスポーツの練習以外になかなか時間の取れない選手たちと,日頃から契約や数字に親しんでいる人たちとでは,交渉上の知識経験において格差が出てくること,それによって,選手が平等・公正とは言えない契約を締結させられることがあるのも自然なことです(みんながみんな,良い人であっても,そうなる可能性はあるのです)。あの英明で,下手に出ない人物として知られているイブラヒモビッチさんでも,上記のように,「騙された」と感じることがあったのです。

 

逆に,今後は,選手側に優秀な代理人がつくのが普通になってくると,チーム側としても,優秀な代理人あるいはスタッフによって交渉をしないと,チームにとって不利益な契約を締結させられてしまう可能性もあります。

 

したがって,選手にとっても,チームにとっても,優秀な代理人をつけることは,必要であると考えられると思います。

 

とはいえ,代理人も,依頼者のために戦いつつも,「ここで戦うのが依頼者のためになるのか,あるいは,一定の譲歩をするのが依頼者のためになるのか」を冷静に考えつつ,マッチポンプ(ただただ紛争を大きくする人)にならないように気をつけなければなりません。依頼者の言うとおりにすることが,必ずしも依頼者のためにならないことも多いからです。依頼者の矛となり盾となることを大原則としながらも,依頼者の利益のために,ときに依頼者への説明や説得をすることも,良い代理人あるいは必要とされる代理人としての,とても重要なクオリティであることは言うまでもありません。

 

 

 

 

 

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牧野 誠司

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