パブリシティ権ってなに?
スポーツ選手の権利として非常に重要なもの(経済的価値の高いもの)の一つとして,パブリシティ権というものがあります。今回の知恵袋では,このパブリシティ権という言葉の意味を解説したいと思います。
パブリシティ権という言葉は法律上の言葉ではありませんので,その定義も,それを語る人によって異なるのですが,平成24年2月2日に最高裁判所がこの言葉についての判例を打ち立てましたので,この最高裁の定義が実務をリードしています。
そして,この最高裁の定義するパブリシティ権とは,「人の氏名や肖像は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利」です。
ここで,「氏名」というのは,特に説明は不要かと思います。その人の名前,ですね。で,「肖像」というのは,写真や動画や絵で表現されたその人の姿かたち,容姿です。
そして,有名人でなくても,人はその氏名を公の場では正しく呼んでもらう権利(最高裁昭和63年2月16日判決)など,氏名についての権利は一定程度認められており,また,肖像についても,無断で写真撮影されたり写真を公の場で利用されたりすることを拒む権利(最高裁平成17年11月10日判決)があるとされています。つまり,有名人ではなくても,氏名と肖像については,「人格的利益たる権利」(人であれば当然有している権利)として一定程度の権利が認められているのです。
しかし,プロスポーツ選手等の有名人になると,その氏名や肖像が,「商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合」,つまり,「経済的な広告宣伝価値」を持つようになり,その場合の氏名や肖像についての権利を,パブリシティー権というのだ,というのが,上記平成24年最高裁の示した考え方です。
ですので,最高裁の言うパブリシティー権というものを簡単にまとめると,
「(人格的権利である氏名権+人格的権利である肖像権)×有名人(広告宣伝価値)=パブリシティー権」
ということになりますね。つまり,パブリシティ権は,誰もが持っている氏名についての権利と,肖像権が,有名になったことでパワーアップした権利ということです(では,パワーアップしたことで何ができるかということは,次の知恵袋で書くことにします)。
しかし,そういう風に,パブリシティ権が人格的利益である氏名権や肖像権をパワーアップさせた権利ということであれば,たとえば,ふなっしーさんとかの氏名(?)や肖像を勝手に宣伝広告に使っちゃった場合どうなるんでしょうね(笑)。ふなっしーという「キャラクター」に「人格的利益」など認められないでしょうし,ふなっしーの発案者(ふなっしーの中に入っている人?)の名前でも肖像でもないのですから,発案者の「人格的」権利とも言えないように思います。おそらく,著作権や商標権等の他の権利で保護するのだと思いますが,ふなっしーの氏名・肖像権と,有名人のパブリシティー権を別扱いする実質的な差異はないような気がします。そうすると,個人的にはもう,パブリシティー権というのは,「人格的利益」から切り離した方が良いように思いますねぇ。そもそも,昔から最高裁が認めている氏名についての権利や肖像権って言うのはまさに平穏に,心安らかに「生きる」ための人格的利益なので,パブリシティー権のような商業的権利とは「根本」が別物なんですから。別に,人格的利益じゃなければ差し止め請求が認められないというような運用はあっても,法原則はないわけですし。まぁ,でも,最高裁が上記のようにここまではっきり定義しちゃったら,あと20年くらいはこの根本的な齟齬の部分は修正されないでしょうね。それこそ,ふなっしーさんのような事例が問題になったらまた別でしょうけど(なお,実務家の感覚としては,ふなっしーさんの名前や肖像を勝手に使ったら,法的な理屈はどうあれ,つまり,パブリシティー権で守られるかどうかは別にして,『絶対にアウト』ですから,やっちゃダメですよ。念のため。)。
ちなみに,最高裁が横文字の権利を認めるのはさほど多くないので(プライバシー権などもありますが,それ以外に横文字の権利って珍しいです。他になんかありますかね?),パブリシティー権という一般用語そのものを権利として認めたのは面白いな,というのが,専門家的感想です。
弁護士 牧野誠司
PROFILE
弁護士牧野 誠司
どのような事件に対応させていただくときでも、「牧野弁護士に依頼して良かった」と言っていただけるよう、そのご依頼者のために最良の解決を目指して努力させていただくことを日々の指針としています。