スポーツ法務

a professional lawyer of sports

プロアマ規定の趣旨

弁護士 牧野誠司

プロアマ規定とは何か,という点については,別の知恵袋でご説明させていただきましたが,プロアマ規定の趣旨,つまり,なぜ,(元)プロとアマは交流してはいけないのか,という点について,この知恵袋で説明します。

 

この点については,正直なところ,実体としては,「プロの浸食からアマチュアを守りたいという思い」があったことは否定できないと思われます。つまり,野球の「力」で勝る元プロの選手が,プロ引退後,アマチュア野球に参入するとなると,社会人野球や学生野球の構成員や指導者の居場所が脅かされる可能性がありますし,それを防ぎたいという思いが現場にあることは,むしろ当然と考えられますし,一概にそれが悪いことだとも言えないでしょう。

 

しかし,「自分たちの身を守りたいからプロアマ規定を置いた」というのは,なかなか胸を張って言いにくいところですし,野球界全体の発展のためには,プロ野球の知識経験をアマチュア野球のために活かすことの有用性自体は否定しにくいところです。そこで,社会人野球については,実質的にプロアマ規定はほとんどなくなった状況にありますし,高校・大学野球におけるプロアマ規定に関して言えば,「元プロが選手になる」ということは現実的にはほとんど考えられません。

 

そこで,現在残っている高校・大学野球のプロアマ規定の趣旨,なぜプロとアマが交流してはいけないのか,という理由については,「学生野球が商業化してはならないから」と説明されています。学生野球は,純粋に,野球を愛する心と,野球を介しての人間の成長を追求すべきであり,そこにプロの視点が入ることで学生野球が商業化するようなことはあってはならない,というように説明されています。

 

たしかに,日本人の多くが甲子園の高校球児を愛し,毎年何十万人もの人が甲子園に学生野球を観戦に訪れるのは,そこでお金と関係のない学生の成長や仲間としての絆を確かめることができることによるのであって,学生野球において,指導者が,「こうすればプロになれる」という意識で日々指導に当たるとしたら,それは何か大切なものを見失わせることになるかもしれません(こういった,プロアマ規定の趣旨については,秋田県の高野連が,他の憲章の説明とともにインターネット上に公開しており,大変興味深い資料を提示してくれています→http://www.akita-koyaren.com/03/pdf/a.pdf )

 

しかし,そういった大上段の抽象的な議論は確かにそうだなと思えるかもしれませんが,やはり,プロ野球の方が,学生野球に比べて野球のクオリティや,選手の健康管理のクオリティなどが高いであろうと思われることや,最近問題にされてきている,「学生野球における学生の酷使」などの問題を考えると,学生野球の世界でも,もっと野球あるいは学生の健康管理の問題について,科学的・多角的な視点から指導すべきという声が高まるのも当然であり,上記のプロアマ規定の趣旨である大上段の議論(学生野球の純粋性の保持)というのも,説得力が落ちてきている,あるいは,純粋性を保持しながらもプロの知識経験を活かす手はあるだろうという意識が高まってきている,というのが,現在の趨勢と言えるでしょう。そこから,「プロアマ規定の現在」という話につながるわけですが,それは次の知恵袋でお話します)。

スポーツ法務 弁護士 牧野誠司

 

PROFILE

牧野 誠司

弁護士牧野 誠司

どのような事件に対応させていただくときでも、「牧野弁護士に依頼して良かった」と言っていただけるよう、そのご依頼者のために最良の解決を目指して努力させていただくことを日々の指針としています。

弁護士 牧野誠司 のその他の専門知識