スポーツ法務

a professional lawyer of sports

スポンサー契約について

弁護士 髙橋健

 

1 スポーツの世界でのスポンサー契約って何?

 

 

今日,プロスポーツ選手が着用するユニフォームやウェアには,決まって企業のネームやロゴが表示されています。

 

あれらは,選手あるいはチームとその企業との間で,スポンサー契約が存在していると考えられます。

 

スポーツの世界におけるスポンサー契約とは,一般的には選手やチームが企業から協賛金等の経済的支援を受ける代わりに,ユニフォームに企業のロゴを入れる等,企業にとって何らかの宣伝・広告効果が認められる行為等を行う旨定めた契約です。

 

そのため,例えば,ゴルフプレイヤーのウェアの胸にAという企業のロゴが入っている場合,そのプレイヤーは,A企業との間でスポンサー契約を締結し,A企業から何らかの経済的支援を受けていると考えられます。

 

昨今,このようなスポンサー契約は,プロスポーツチームや選手に限らず,スポンサー企業と同じ地域のアマチュアスポーツチームや特定の選手,さらには大学の体育会チームにまで裾野が広がっています。

 

このようなスポンサー契約を締結する目的は,チームや選手側からすると,スポンサー企業から経済的な支援を受けることで,物的・人的整備を図り,より一層本業のスポーツに打ち込むことができる点にあります。

 

他方,スポンサー企業側からすると,まず,選手やチームが活躍することによって自社の宣伝効果が期待できるという点が考えられます。

単に知名度を高める,ということもあるでしょうが,例えば,既存の取引先関係者がそのロゴ等を見て,「あ,これ,うちの取引先さんだ。こんなスポーツチームのスポンサーにもなっているんだ,がんばっているな。」という感じで顧客満足度を上げることにも繋がります。

 

また,大学の体育会チームなどであれば,そこに所属する将来有望な選手と若いうちから信頼関係を築くことで,その選手が将来有名になった後の関係構築の基盤を作っておくことも一つの狙いとなるかもしれません。

 

さらに,そのような自社の宣伝広告以外にも,地域スポーツ支援活動という企業の社会活動の一環としてなされる場合もあります。

 

このようにスポーツの世界でのスポンサー契約は,大局的にみれば,プロ・アマチュア問わず,日本のスポーツ業界の底上げに一役買っている,といえ,大変有意義なものといえます。

 

 

2 スポンサー契約の法的落とし穴(注意点)

 

 

例えば,スポーツ用品を製造・販売するA社が,今般,Bというサッカーチームの試合用ユニフォームに自社のロゴを表示させてもらう代わりに,スポンサー料として一定の協賛金を支払う旨のスポンサー契約を締結したとします。

 

そしてA社関係者が,スポンサー契約後はじめてのBの試合を,期待を膨らませてみてみると,ユニフォームの袖口の小さい箇所にロゴが表示されており,「えっ?こんな見にくい小さい場所に表示されるの?もっとユニフォームの胸あたりに大きく表示されるものと思っていた!」ということが生じてしまったとします。

 

この場合,A社がBに対し,「もっとユニフォームの胸あたりに大きく表示してほしい」と要求した場合,認められるでしょうか。

それが認められるかどうかは,契約(書)でどのように定められていたかによりますが,その点が明確に決められていなかった場合には,トラブルのもととなります(すでに胸の部分には,他のスポンサー名が表示されていた場合などには,間違いなくトラブルとなるでしょう)。

 

これは,少々大げさな話ですが(さすがに,表示される部位は特定したうえで,契約するでしょう),例えば,BがAとの契約後に,Cというこれまたスポーツ用品を製造・販売する企業(Aの競業他社)とスポンサー契約を締結し,Aのロゴのすぐ横にCのロゴを表示させた場合はどうでしょうか。

 

AはBに対し,「それでは,自社の宣伝効果が半減してしまうので,競業他社のロゴの表示はやめてほしい」と法的に言えるでしょうか。

 

また,A社としては,自社のロゴが表示されているBのチームユニフォームを,それを着用しているB所属のD選手の肖像とともに自社のパンフレットに掲載しましたが,実は,このD選手は,全国的に有名な選手であったため,すでに自己の肖像権使用に関し,専属的に他の企業E社と契約していたとします。

 

この場合,D選手からすると,A社で自己の写真が使われることは困りますので(E社との契約違反になります),A社に対し,使用禁止を求めていきたいところです。

 

その場合,A社は,そのD選手からの要求に応じないといけないでしょうか。

 

 

このようにスポンサー契約においては,企業側がスポンサー金を支払うことで得られる権利内容が,様々考えられます。

 

企業は,自社の名前やロゴをチームのウェアに表示するとしても,ユニフォームのどこに入れることができるのか(胸か,背番号の上か,肩の部分か等),ユニフォーム以外のチームジャージはどうか(これらのチームジャージを記者会見等で使用する場合には,むしろこちらの方が広告宣伝効果がある場合だってあり得ます)など,多種多様考えられます。

 

また,企業は,チームに対し,競業他社のロゴ等については表示しないことまで求めることができるかや,スポーツチームや選手の肖像等を自社パンフレットやHP等に掲載することまでできるかといった,スポンサー企業が得られる権利の範囲についてもさまざま考えられます。

特に肖像権などに関しては,海外にも知名度のある日本人スポーツ選手が輩出されている現状に照らせば,肖像を使えるのは,国内だけなのか,それとも国外でも可能なのか,といった問題にも注意する必要があります(実際のスポンサー契約書においては,「肖像権使用は国内のみとするが,日本を離発着する国際線航空機の機内誌で使用するのであればOK(国内での使用とみなす)」などの大変細かい条項まで定めることもあります)。

 

さらに,チームとスポンサー契約するとしても,先程の例の通り,チーム内の選手に対してもスポンサー契約の効力を及ぼすこと(例えば,勝手に第三者との間で肖像権使用に関する契約を結ばせない)についてまで検討しておく必要がありそうです。

 

もちろん,これらはスポーツチームや選手側においても同様であり,今回のスポンサー契約によって,自分たちにどのような義務が課されるのか,しっかり確認する必要があります。

 

ユニフォームにロゴを表示させるだけなのか,それとも肖像などについても,使用させる必要があるのか,さらには,スポンサー企業がスポーツ用品を扱う企業の場合,同社製品(スパイク等)を一定期間,使用しなければならないなどといった義務は発生しないか(その結果,選手としてのパフォーマンスに悪影響が出るようであれば,スポンサー契約した結果,能力低下を招いたこととなり,本末転倒のような話になってしまいます),注意深くチェックする必要があります。

 

 

3 最後に(権利義務関係を明確に!)

 

 

以上のように,スポンサー契約における企業の権利(チーム・選手の義務)は様々ですから,契約の際にはその権利内容・範囲を契約書で明確化しておくことが肝要です。

 

売買や賃貸借などといった,法律(民法)で標準的な権利義務が定められていたり,また過去の膨大な裁判例によって解釈が相当程度確立されている契約であれば,契約書に記載がない場合であって,法律や裁判例を手掛かりに契約内容をある程度明確化することも可能ですが,スポンサー契約は,そのような法律上の定めはなく,また裁判例もそれほど蓄積されていないのが現状です。

 

その意味でも,以上のような権利義務関係の明確化は重要となってきます。

 

我々弁護士は,このようなスポーツの世界におけるスポンサー契約のリーガルチェック等(スポーツ法務)にも積極的に取り組んでおります。

 

 

(弁護士 髙橋 健)

弁護士 髙橋健 のその他の専門知識