スポーツ法務

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移籍制度について

弁護士 髙橋健

 

1 プロ野球の移籍制度

 

プロ野球選手は,現在の球団との契約期間中,他の球団と自由に移籍交渉することができるでしょうか。

 

また,現在の契約期間が満了に近づいてきたため,自分をもっと評価してくれている他の球団と自由に移籍交渉することができるでしょうか。

 

答えは,いずれも,原則として「NO」です。

 

現在,日本のプロ野球では,「保留選手制度」というものがあります。

 

この保留選手制度とは,選手は,一旦特定の球団と契約を締結すると,他の球団と一切契約交渉できなくなるもので,日本プロ野球協約49条に以下のとおり定められています。

 

「第49条 (契約更新)

 

球団はこの協約の保留条項にもとづいて契約を保留された選手と、その保留期間中に、次年 度の選手契約を締結する交渉権をもつ。」

 

 

以上のような保留選手制度の結果,プロ野球選手は,仮に球団側との間で,自分への評価等に不満をもったとしても,他の球団と自由に移籍交渉ができないこととなります。

 

前回私が知恵袋でご紹介した「トレード制度」も併せて考えると,プロ野球の世界は,球団>選手という構造がとても強いことが分かります。

 

ただし,近年,いわゆるフリーエージェント(FA)制度が導入されましたので,登録期間の長い選手などは,他球団と自由に選手契約を締結できることとなりました。

 

 

2 Jリーグの移籍制度

 

次にJリーグの移籍制度ですが,Jリーグには,プロ野球のような保留選手制度は存在しません。

 

そして,2009年の規則改正により,Jリーグの選手は,チームとの契約期間満了前6カ月前から自由に他のチームと移籍交渉ができることとなりました(「プロサッカー選手の契約,登録及び移籍に関する規則(以下「規則」といいます)3-1④)。

 

もっとも,そのような移籍交渉をする場合,移籍先チームとして選手と交渉を開始するクラブは,交渉に入る前に書面で現時点のクラブにその旨通知する必要があります(規則3-1④)。

 

また同様に選手の自由な移籍の足かせとなっていた契約期間満了後の移籍に関する移籍金制度も,同じ規則改正により,廃止されました(規則3-2⑥)(※1)。

 

このように,Jリーグにおいては,プロ野球に比べて,ある程度柔軟な移籍制度が構築されているといえます。

 

 

3 まとめ

 

以上のとおり,選手の移籍制度は,各スポーツ分野で様々です。

 

スポーツ愛好家の立場からすれば,選手の移籍とは,例えば不調に陥っていた選手が移籍をきっかけとして一気に復調し活躍するようなこともあり,大変興味深いニュースです。

そのため,選手の移籍は,可能な限り自由に活発になされることを期待する側面もあります。

 

もっとも,他方で,今でこそ華やかに第一線で活躍している選手も,当然,下積み時代があり,その下積み時代に育成してくれたのは元のクラブチームであることも事実です。

そのようなこれまでの育成に時間も費用も投資したクラブの経済的損失も無視できません。

 

そのような視点で,例えばJリーグでは,契約期間満了後の移籍金廃止と同時に,「トレーニングコンペンセーション」という制度を導入しています(※2)。

 

以上のような,いわばクラブの選手に対する投下資本の回収は,何らかの方法でしっかりと保障しなければなりません。そのような制度の保障・構築が,ひいてはそのスポーツ分野全体の発展にもつながるのだと思います。

 

 

※1 なお,ヨーロッパでは,1995年のいわゆるボスマン判決により,クラブは,契約期間が満了した選手の所有権を主張できず,そのため選手は,契約期間満了後はEU圏内の他のクラブチームと自由に交渉でき,その際,移籍金が発生することもない運用がすでに開始されていました。

 

※2 この制度は,プロ選手が所属していたクラブにおいて施されたトレーニングにかかった費用を,その選手が23歳までに他のクラブに移籍した場合に,移籍先クラブから移籍元クラブに支払われる補償金制度のことをいいます。

 

 

(弁護士 髙橋 健)

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