スポーツ法務

a professional lawyer of sports

スポーツ事故について

弁護士 髙橋健

 

1 スポーツ事故とは

 

スポーツは,一般市民の方の間でも,日々行われています。

 

それは,当然ながら,スポーツ自体の持つ楽しさに由来するものですが,その他にもスポーツはコミュニケーションツールとしても活用されています。

 

しかしながら,スポーツには,よいことばかりではありません。そう,スポーツ事故です。

 

スポーツは,大小差はありますが,身体を動かすものであり,どうしても,事故(怪我)のリスクは内在的に潜んでいます。

 

特に,他人とのボディコンタクトを必要とするスポーツ(例・ラグビーやアメフト)などでは,尚更です。

 

今回は,そのようなスポーツ事故が発生した場合,裁判所は,相手に怪我を負わせてしまった人にどのような注意義務を課しているのかを,私自身日々やっているフットサル(※)に関する裁判例をもとに考えてみます。

 

 

2 フットサルおける注意義務の裁判例

 

参考となる裁判例として,東京地判平成19年12月17日があります。

 

 

この事案は,フットサルの試合中(一般市民の方が参加する試合です)に,相手選手の右膝の側面あたりに,自己の左膝付近を激突させ,右脛骨関節内骨折を負わせてしまったものです(怪我をさせてしまった人は,怪我をした方から金約800万円の損害賠償請求を受けました)。

 

 

この事案において,裁判所は,フットサルの競技者は,相手方の動作を予想した上で,相手方の身体との衝突によって,相手方に傷害を生じさせる結果を回避すべき義務を負っていることを認めつつ,ただ,その義務に違反したとされるのは,相当程度限られた場合になると判断し,結果として,本件損害賠償の請求を認めませんでした。

 

 

裁判例では,上記のように義務違反の場合を相当限定化した理由として,そもそもフットサルという競技自体に内在する危険性をあげています。

 

 

つまり,フットサルとは,その競技の性質上,ゲーム中においては,ボールの獲得を巡って,足と足が接触し合う局面が当然予定されているのであるから,それにもかかわらず,そのようなプレーをした結果相手選手に怪我を負わせたことが法的に注意義務違反となる場合は,「そのようなプレーをしたら,相手選手が怪我するの明らかでしょう」(相手選手に傷害を生じさせる結果を予見することが可能でしょう)と考えられるようなプレーをした場合に限定されるのです。

 

 

3 まとめ

 

フットサルを多少なりとも日々行っている私の感覚としては,先程紹介した裁判例は,怪我をしてしまった方が大変気の毒であることは当然ですが,やはりフットサルに内在する危険が発露してしまった場合として,やむを得ないのかな(法的な賠償責任が生じる場面ではないのかな)と思っています。

 

しかしながら,一般市民の方が今以上に安心してスポーツを楽しむためには,果たして先程お話した「そのようなプレーをしたら,相手選手が怪我するの明らかでしょう」といえるようなプレーが,具体的にどのようなプレーなのかを明らかにしていく必要があるのだと思います。

 

これはあくまで私の個人的な感覚ですが,例えば,明らかに故意に相手選手の足を蹴ったような場合がそれにあたることは勿論ですが,そのような故意ではなかったとしても,例えば高いルーズボールを追いかけて,相手選手がすでに先行してヘディングでそのボールを処理しようとしているにもかかわらず(そのことを認識できたにもかかわらず),殊更,自分は足(スパイク)をボールに向けて高く蹴り上げ,結果,相手選手の頭部にスパイクが入ってしまったような場合などは,そのようなプレーにあたるのかなぁと思ったりしています(日本サッカー協会の発表しているサッカー競技規則(Laws of the Game2013/2014)において,退場(レッドカード)が命じられる場合として定められている「著しく不正なファウルプレー」「乱暴な行為」などに該当すると考えられるプレー)。

 

もちろん,退場が命じられるプレーであれば,直ちに法的な注意義務に違反することにはなりませんが,まずは一つの目安として考えられるのかなと思います(そこから,さらに限定化されるイメージ)。

 

 

今後も,引き続き,自分もスポーツをする身として,スポーツ事故の裁判例には興味をもって取り組みたいと考えています。

 

 

 

※ フットサルとは,簡略化していえば,1チーム5人制のサッカーのミニチュア版のような競技です。

 

(弁護士 髙橋健)

 

 

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