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トレード制度について

弁護士 髙橋健

 

1 トレード制度とは

 

プロ野球の世界では,選手の「トレード」という言葉をよく耳にします。

 

この「トレード」制度は,球団間で所属する選手同士を交換する交換トレードが主流ですが,その他にも,一方球団のみが選手を譲渡し,もう一方の球団は選手ではなく金銭を支払う金銭トレード,さらには交換トレードと金銭トレードの併用(A球団のB選手と,C球団のD選手及び金〇〇万円を交換する,といった併用)などもあります。

 

 

2 トレードには選手の同意は不要?

 

さて,このトレード制度では,球団は,選手の意向とは関係なく球団同士の判断で実施できるとされています。この「選手の意向」と関係なく実施できる点に,普通の「選手移籍」にはないトレード制度の特色がみられます。

 

私は,かねてより,このようなトレード制度(いわば,球団が「選手の意向」と関係なく勝手に選手との契約関係を,他の球団に譲渡し,その代わりに球団にとって必要な選手を他球団から取得するという制度)が,なぜ可能なのか若干疑問をもっていました。

 

法律上,契約関係を第三者に移転させる場合,一般的には,その相手方契約当事者の同意が必要と考えられており,そうであれば,球団が選手との契約を他球団(第三者)に譲渡するのであれば,選手の同意が必要なはずではないか,と考えていたのです。

 

 

3 プロ野球の統一契約書21条

 

プロ野球においては,日本プロフェッショナル野球協定にて,球団と選手との間でプロ野球選手契約を結ぶ場合,統一契約書を用いなければならない,とされています。

つまり,プロ野球の世界では,球団と選手との間では,統一の契約書を用いているのです。

 

そしてその統一契約書の21条において,次のような記載がなされています。

 

「第21条(契約の譲渡)

 

選手は球団が選手契約による球団の権利義務譲渡のため,日本プロフェッシ ョナル野球協約に従い本契約を参稼期間中および契約保留期間中,日本プロフェッショナル野球組織に 属するいずれかの球団へ譲渡できることを承諾する。」

 

 

このように,プロ野球選手は,入団する際に(統一契約書を調印する際に),いわば将来行われる可能性のあるトレードを予め包括的に同意しているのです。

 

トレード制度は,この契約条項を用いて,法律上適法に行われている,ということになります。

 

 

4 まとめ

 

しかしながら,プロ選手は,やはり所属する球団いかんによって,自分の思い描くプレーができるかどうか変わってきます(特に野球のような団体スポーツであれば,なおさらです)。

 

それにもかかわらず,未だトレード先の球団も決まっていない時期(入団時)に包括的に同意することを定める統一契約書21条には,非難の声もあるところです(法律的には,民法上の公序良俗(民法90条)に反する可能性,独占禁止法19条に反する可能性,さらにはプロ野球の選手契約を雇用契約と考えれば民法625条(使用者の権利の譲渡の制限)に反する可能性も指摘されています)。

 

同じプロスポーツであるJリーグの日本サッカー協会選手契約書には統一契約書21条のような定めは見られないことや,大リーグのトレード制度には一定の選手に拒否権が認められていること等に照らせば,今後,プロ野球の統一契約書21条も,選手の意向を尊重する形で変更させていく必要性があるのかもしれません。

 

 

(弁護士 髙橋 健)

 

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