相続放棄後は固定資産税の支払義務はある?請求が来た場合の対処法も紹介

相続放棄後は固定資産税の支払義務はある?請求が来た場合の対処法も紹介

相続放棄を行ったにもかかわらず、市区町村から固定資産税の納税通知が届くケースは少なくありません。「すでに放棄したのに、なぜ請求が来るのか」「支払う必要があるのか」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

実際には、固定資産税には「課税基準日」や「所有者名義」など、相続放棄とは別の観点で処理が進められる側面があり、手続きの進行状況や情報の伝達不足によって誤って請求がなされることがあります。

本記事では、相続放棄と固定資産税の関係を法的な観点から丁寧に解説し、誤請求への適切な対応方法や、不要不動産を手放すための選択肢についても詳しくご紹介いたします。

1、相続放棄と固定資産税の関係とは?

(1)相続放棄すると固定資産税の支払い義務はなくなる

① 相続放棄とは財産を一切受け継がなくする手続き

相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)の財産を一切受け継がないという意思表示を家庭裁判所に行い法的に認めてもらう手続きです。プラスの財産(預貯金・不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金・未納税など)もすべて放棄することになります。

この相続放棄は、原則として被相続人の死亡を知った日から3か月以内に行う必要があります。この期間を「熟慮期間」といい、この間に相続するか放棄するかを決定することになります。3か月を過ぎると、自動的に単純承認(すべてを相続)したとみなされ、原則として、放棄が認められなくなるため注意が必要です。

② 固定資産税は1月1日時点で固定資産を所有している人に課税される

固定資産税は、毎年1月1日時点で固定資産(不動産)を所有している者に対して、市町村から課税される税金です。この1月1日を「課税基準日」と呼びます。

たとえば、被相続人が12月末に亡くなり、相続放棄を2月に行ったとしても、1月1日時点で登記名義人が被相続人のままであれば、市区町村は1月1日時点の被相続人の法定相続人に対して固定資産税の納税通知書を送付する場合があります。

法的には相続放棄が受理されれば、最初から相続人でなかったことになるため、固定資産税の支払い義務はないのですが、上記の理由から、相続放棄をしても、固定資産税の納税通知書等の書類が送られてくることがあるのです。

(2)相続放棄しても固定資産税の請求が来る理由とは?

① 名義変更の未実施による誤送付の場合

固定資産の所有者として登録されている登記簿上の名義人が変更されていない場合、市町村はその情報をもとに納税通知書を作成します。被相続人が死亡した後、登記名義がそのままの状態であれば、法定相続人宛てに固定資産税の請求が届くのはよくある話です。

相続放棄をしていても、市町村が、登記簿上の名義に基づいて、「相続人=新たな所有者」とみなし、課税を行うというのはよくあります。

② 市町村が放棄手続きを把握していない場合

家庭裁判所で相続放棄が受理されても、その情報は自動的に市町村に伝わるわけではありません。したがって、市町村が相続放棄の事実を知らなければ、法定相続人宛てに納税通知書を送付してしまうのです。

このような場合には、「相続放棄申述受理証明書」などの資料を添えて、市町村に対して事情を説明し、課税対象から外してもらうよう依頼する必要があります。

2、固定資産税の納税通知書を放置・無視するとどうなる?

(1)督促状や催告書が届く

納税通知書を無視し、期限までに支払いや連絡を行わなかった場合、市町村から督促状や催告書が届きます。これに応じなければ、法的手続きに移行する可能性もあります。

(2)延滞金が発生する

納期限を過ぎると、法定の延滞金(延滞加算金・延滞利息)が加算されていきます。相続放棄をしている場合でも、支払い義務の有無を市町村が正確に把握しない限り、延滞金の計算も自動的に行われてしまうのです。

(3)財産の差押えなど、法的措置に発展する可能性もある

対応せずに放置し続けた場合、最悪の場合には、差押えや滞納処分といった強制執行の対象になるおそれもあります。たとえ相続放棄をしていたとしても、手続きが進行してしまえば、その後の対応はさらに複雑化します。

3、相続放棄したのに固定資産税の請求が届いたときの対処法

(1)相続放棄の受理証明書を確認する

相続放棄を家庭裁判所に申述し、受理された場合、裁判所から「相続放棄受理通知書」が発行され、さらに、請求すれば「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらえます。これらは、あなたが正式に相続人ではなくなったことを示す重要な証明書です。

市町村に固定資産税の納税通知書を取り下げてもらうためには、これらの書類を提供することになります。

(2)市町村への相続放棄通知の有無を確認

相続放棄の手続きが完了した後でも、市町村がその事実を知らなければ、通常どおり法定相続人に対して課税手続きが進行します。そして、市町村は、基本的に、登記簿上の名義人とその名義人の相続関係を基に課税を行うため、相続人が通知をしなければ、登記簿上の名義に基づいて、納税通知書等の送付が行われます。

そのため、相続放棄を行った場合は、市町村側に相続放棄をした事実を把握しているかを確認し、もし把握されていなければ、すぐに相続放棄の証明書とともに事情説明を行いましょう。

(3)市町村に書類を提出する

請求書が届いた場合は、慌てずに、以下のような文面と書類を市町村へ提出します。

【提出書類の例】

  • 【必須】相続放棄申述受理通知書又は相続放棄受理証明書の写し
  • 相続関係を示す戸籍謄本や除籍謄本
  • 固定資産税納税通知書のコピー
  • 説明書(簡単な事情説明文)

【説明文の例文】

貴庁より送付されました固定資産税納税通知書(納税義務者:○○○○様)につきまして、当方は法定相続人であるものの、令和〇年〇月〇日付で○○家庭裁判所にて相続放棄が受理されております。

つきましては、本件納税通知についてご確認いただき、適切なご対応を賜りますようお願い申し上げます。

敬具

このように、市町村側に相続放棄したことを伝えましょう。

(4)必要に応じて弁護士に相談する

以下のようなケースでは、そもそも相続放棄を行うことができるのか、相続放棄をしてもなお納税義務があるのかなどの点について、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

  • 相続放棄の期限を過ぎてしまっていた場合
  • 他の相続人が放棄しておらず、納税義務を押し付けられる可能性がある場合
  • 市町村が放棄を認めず、納税を求めてくる場合
  • 固定資産税以外にも相続債務の請求が届いている場合

弁護士であれば、相続放棄の効力を法的に主張し、請求取り下げ交渉を代行してくれるだけでなく、今後の対応策も明確にしてくれます。

4、相続放棄しても管理責任は残る?放置できない理由

(1)相続放棄後も「相続財産清算人」が決まるまで責任を負う可能性も

相続放棄をすると、その人は法律上「はじめから相続人でなかった」ことになります。しかし、民法940条では相続放棄をした者であっても、一定の場合には、「相続人または相続財産の清算人」という相続財産を管理すべき人が現れるまで、相続財産を保存しなければならないと定められています。

これは、遺産の価値が毀損したり、第三者に迷惑をかけることを防ぐための制度です。つまり、相続放棄をしても、「一定の管理責任」があるというのが法律の立場です。

もっとも、上記の保存義務は、相続放棄をしたときに相続財産を「現に占有しているとき」に限られますので、例えば、被相続人とは疎遠であったとか、相続財産が一切手元にないようなケースでは、このような義務を負いません。

(2)管理責任を回避するには「相続財産清算人」選任申立てをする

相続放棄をした人が被相続人と同居していたり、相続財産を保管しているなどの理由で上記の保存義務を負う場合に、管理責任から免れるためには、家庭裁判所に「相続財産管理人の選任」を申し立てる必要があります。

これは、放棄された財産の管理・清算を行う第三者(弁護士等)を裁判所に任命してもらう手続きです。相続財産管理人が選任されれば、放棄した元相続人は財産管理の責任から解放されます。

【申立ての主な流れ】

  1. 裁判所に申立書を提出
  2. 審査・選任決定
  3. 相続財産管理人が選任され、財産を清算

この手続きを踏むことで、放棄後の不動産や負債について一切の責任から明確に解放されることになります。

5、相続放棄と一緒に知っておくべき固定資産税対策

相続放棄は、不要な負債や不動産の引き継ぎを避けるための有効な手段ですが、相続に際しては、固定資産税をはじめとする各種費用や税金への対応まで見据えた対策を取ることが重要です。

また、放棄をしない場合でも「手放したい不動産」をどう扱うかによって、今後の費用負担が大きく変わってきます。

ここでは、相続放棄と併せて検討すべき固定資産税対策を解説します。

(1)固定資産税の他にかかる可能性のある税金・費用

① 都市計画税・管理費・草刈りなどの維持費

固定資産税だけでなく、以下のような関連費用や維持コストも発生する可能性があります。

  • 都市計画税:市街化区域にある土地・建物には、固定資産税に加えて課税される。
  • 管理費・修繕費:マンションの共有部分の管理費など。管理組合から請求されるケースあり。
  • 草刈り・清掃・防犯費用:空き家や空き地を放置していると、近隣から苦情が入り、行政指導が入ることも。

これらは、仮に相続放棄をした場合でも、上述の管理義務を負う場合には負担を求められる可能性があるため、注意が必要です。

② 被相続人が生前に滞納していた場合の延滞金

被相続人が生前に固定資産税や都市計画税を滞納していた場合、延滞金が発生していることがあります。

相続放棄をしていれば、これらの支払い義務は基本的に回避できますが、以下のような場合には、差押えの通知や強制執行に発展することもあり得ます。

  • 相続放棄が無効になった場合
  • 放棄前に誤って支払ってしまった場合
  • 相続放棄が適切に届出されておらず市町村が放棄を認識していない場合

こうしたリスクを未然に防ぐためにも、相続放棄後は市町村への通知と確認を必ず行いましょう。

(2)相続放棄せずに空き家・負動産を手放すための選択肢

① 相続登記を経たうえで売却・寄付・譲渡する

「相続放棄まではしないが、負担を減らしたい」という場合、まず検討すべきは不動産の処分(売却・寄付・譲渡)です。

ただし、不動産の処分は、まさに相続するということにほかなりませんので、不動産を処分するためには、相続登記を行い、名義を自分に移す必要があります。この場合は、相続放棄を行うことはできません。市場価値のある不動産なら売却や寄付ができる可能性があります。

② 相続土地国庫帰属制度を活用する

2023年4月からスタートした相続土地国庫帰属制度は、「不要な土地を一定の条件を満たせば国に引き取ってもらえる」制度です。

【主な条件】

  • 建物が建っていない土地(更地であること)
  • 境界が明確で、争いがない
  • 土壌汚染や法令違反がない
  • 管理が行き届いている

この制度を利用すれば、将来の固定資産税や管理費用から完全に解放される可能性があります。ただし、制度の利用には審査や費用(負担金)が必要です。

③ 市区町村による無償引き取り制度を活用する

一部の自治体では、使われていない土地・空き家を無償で引き取る制度や、空き家バンクのような制度を設けている場合もあります。

こうした制度は、高齢化や過疎化が進む地域で積極的に導入されている傾向があり、以下のような条件に応じて、自治体側が譲受けてくれることがあります。

  • 一定条件を満たす建物や土地
  • 継続的な管理が困難な場合

引き取り可否や条件については、不動産が所在する市町村に直接問い合わせてみましょう。

相続放棄に関するよくある質問

(1)相続放棄をしたら固定資産税は払わなくていいの?

相続放棄が家庭裁判所で受理されれば、法的には相続人ではなくなるため固定資産税の支払い義務もなくなります。

ただし、市町村が相続放棄の事実を把握していないと請求が届くことがあります。その場合は相続放棄申述受理証明書を提出し、誤請求であることを説明しましょう。

(2)相続放棄をしたら固定資産課税台帳はどうなるの?

相続放棄をしても、固定資産課税台帳の所有者情報は自動的には更新されません。相続放棄後は証明書を提出し、課税対象から除外するよう申し出る必要があります。登記名義が被相続人のままであると、市町村が法定相続人に対して固定資産税を請求するケースがあります。

(3)遺産相続を放棄すると税金はどうなるの?

相続放棄を行うと、被相続人のプラスの財産はもちろん、借金や税金などマイナスの財産も一切引き継がないことになります。したがって、固定資産税や相続税の支払い義務もなくなります。

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まとめ

相続放棄をすれば固定資産税の支払い義務から解放されますが、相続放棄の手続きが市町村に正しく伝わっていない場合、請求が届くこともあります。

誤請求を受けた際は慌てず、相続放棄証明書を提出して説明しましょう。土地の管理責任や、不動産の処分方法について不安な方は、弁護士に相談すると安心です。

2025.06.17野田俊之