相続放棄の撤回はできる?取消できるケース・期限・手続を弁護士が解説

相続放棄 撤回

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京都弁護士会所属 武田 雄司
京都弁護士会所属
武田 雄司

相続放棄の手続を進めるにあたり、「一度申述した相続放棄は撤回できるのか」「取消しが認められるのはどのような場合か」といった疑問を持つ方は少なくありません。

相続放棄は、家庭裁判所に申述が受理されると原則として撤回できません。ただし、詐欺や強迫を受けて放棄した場合など限定的なケースでは、取消しが認められる余地が残されています。

本記事では、相続放棄の撤回と取消しの違い、取消しが認められる具体的なケース、期限、家庭裁判所での手続まで、弁護士がわかりやすく解説します。

相続放棄は原則撤回できないが例外的に取消は可能

相続放棄の撤回と取消しについては、民法919条という条文に明確なルールが定められています。多くの方が「撤回」と「取消し」を同じ意味で使っていますが、法律上はまったく違う制度として扱われます。

撤回・取消し・取下げの3つの違いを表で示します。

用語 意味 効力が及ぶ時点 相続放棄での扱い
撤回 有効に成立した法律行為を将来に向かって取りやめる 撤回した時から将来 申述受理後は原則不可
取消し 瑕疵のある法律行為を遡って無効にする 法律行為の時点に遡る 法定の取消事由があれば可
取下げ 申述した手続を引き下げる 申述自体がなかった状態 受理前であれば可

それぞれの場面でどの制度が使えるのかを、以下で詳しく見ていきます。

相続放棄は申述が受理されると撤回が認められない(民法919条1項)

相続放棄は、家庭裁判所が申述を受理した時点で法的な効力が発生し、その後に「やはりやめたい」と申し出ても撤回は認められません。民法919条1項が「相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない」と定めているためです。3か月の熟慮期間内であっても撤回はできません。

この規定が設けられている理由は、相続関係の安定を守るためです。撤回を自由に認めると、放棄を前提に進められた遺産分割協議のやり直しが必要になったり、債権者が誰に請求すればよいかが揺れ動いたりと、関係者全員に大きな負担が生じます。

「父の借金が多いと聞いて放棄したが、後から多額の預貯金や不動産が見つかった」というような場合でも、放棄時点で詐欺・強迫・錯誤などの取消事由がない限り、撤回や取消しは認められません。なお、生命保険金は受取人の指定内容によって相続財産に含まれない場合があるため、放棄前に財産の種類を確認しておくことが大切です。

相続放棄を依頼するか迷っている方は、財産・負債の状況を確認したうえで判断するためにも、申述前に当事務所までご相談ください。

例外として取消が認められるケースがある(民法919条2項)

撤回が原則として禁じられている一方で、一定の取消事由がある場合には、相続放棄を取り消す余地が限定的に残されています。民法919条2項が「前項の規定は、第1編及び前編の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない」と定めているためです。

取消事由は限定的で、未成年者や成年被後見人など制限行為能力者が単独で放棄したケース、詐欺や強迫を受けて放棄したケース、後見監督人の同意なく代理放棄をしたケースなどが該当します。いずれも放棄をした時点にすでに法律上の重大な問題が存在していたケースに限られ、「後悔した」「やはり財産があった」といった事情だけでは取消しは認められません。

取消しが認められると相続放棄は最初から存在しなかったことになり、相続人の地位に戻ります。ただし6か月の時効期間と10年の除斥期間があり、期間を経過すると権利を失います。

申述受理前であれば取下げで申述を引き下げられる

相続放棄を申述したものの、家庭裁判所がまだ申述を受理していない段階であれば、撤回や取消しとは別に「取下げ」という方法で申述自体を引き下げることができます。家庭裁判所に提出してから受理されるまでにはある程度の時間がかかるため、その間には取下げを検討する余地があります。

取下げを行う際は、申述した家庭裁判所に速やかに連絡し、取下書を提出します。受理前の段階であれば取下げは比較的柔軟に認められます。

ただし、取下げ後に単純承認・限定承認・再度の相続放棄のいずれを選べるかは、熟慮期間の残り日数や他の相続人の状況によって異なります。特に限定承認は原則として共同相続人全員で行う必要があるため、取下げ後の方針は早めに確認することが大切です。

受理通知書が届いた後は取下げの選択肢はなくなるため、検討する場合は一刻も早く動く必要があります。

相続放棄の取消が認められる5つのケース

相続放棄の取消しが認められるのは、放棄した時点で法律上の重大な瑕疵があった場合に限られます。単なる後悔ではなく、放棄した時点の判断能力や意思表示に問題があった場合に問題になります。ご自身の状況が次のどれに近いかを確認してください。

ケース 取消しの根拠条文 該当する状況
①未成年者の単独放棄 民法5条 法定代理人の同意なし
②成年被後見人の放棄 民法9条 本人が自ら放棄
③被保佐人の同意なし放棄 民法13条 保佐人の同意なし
④詐欺・強迫による放棄 民法96条 騙された・脅された
⑤後見監督人の同意なし放棄 民法864条・865条 後見監督人の同意なし

なお、被補助人についても、家庭裁判所の審判により相続放棄が補助人の同意を要する行為とされている場合には、同意の有無が問題になります(民法13条)。

それぞれのケースを順に解説します。

①未成年者が法定代理人の同意なく単独で相続放棄をするケース

未成年者は法律行為を単独で行う能力が制限されているため、法定代理人である親権者の同意を得ずに行った相続放棄は取り消すことができます。民法5条が「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」と定めているためです。

例えば、両親が離婚して父親と疎遠だった17歳の子が、父親の死亡を知って母親(親権者)の同意を得ずに単独で家庭裁判所に申述したケースでは、後から取消しを主張できる可能性があります。

なお、取消しができる期間は、民法919条3項により「追認をすることができる時」から6か月以内とされています。未成年者のケースでは、本人が成年に達した時点だけでなく、取消権を行使できる人が取消事由を知った時期も問題になるため、具体的な起算点は個別に確認する必要があります。

②成年被後見人本人が相続放棄をするケース

成年被後見人とは、認知症や精神障害などによって判断能力を欠く常況にあると家庭裁判所から判断され、成年後見人を選任された人のことを指します。成年被後見人が自ら相続放棄をした場合、その放棄は取消しの対象となります。民法9条が「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる」と定めているためです。

判断能力を欠く本人による放棄は、本来であれば成年後見人が代理して行うべきものです。本人単独の放棄は意思表示として不完全であるため、後から成年後見人が相続放棄の取消しを申述できる場合があります。

相続放棄の申述が受理された場合でも、後から成年被後見人本人による申述であったことなどの取消事由が問題になることがあります。そのため、成年後見が関係する相続放棄では、成年後見人や弁護士などの専門家に確認したうえで手続を進めることが大切です。

③被保佐人が保佐人の同意なく相続放棄するケース

被保佐人とは、判断能力が著しく不十分とされ家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた人を指します。被保佐人が相続放棄をするには保佐人の同意が必要であり、同意を得ずに行った放棄は取消しの対象となります。民法13条1項6号が「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること」を保佐人の同意を要する行為として明示しているためです。

例えば、軽度の認知症で保佐人がついている父親が、子から「借金しかないから放棄しよう」と言われ、保佐人に相談しないまま単独で申述したケースでは取消しが可能です。

判断能力が不十分とされ保佐開始の審判を受けた被補助人についても、補助人の同意を要する行為として相続放棄が定められている場合には、同意なくなされた放棄は取消しの対象となります。

④詐欺または強迫により相続放棄するケース

詐欺や強迫によって相続放棄の申述を行った場合、その放棄は民法96条に基づいて取り消すことができます。他の相続人や第三者から虚偽の情報を伝えられて誤った判断をしたケース、害悪を示されて畏怖し意に反する放棄を強いられたケースが典型例です。

詐欺と強迫はそれぞれ別の要件で判断されるため、具体例を分けて見ていきます。

詐欺による取消の具体例

詐欺による相続放棄の取消しとは、他人から事実と異なる情報を意図的に伝えられ、その情報を信じて放棄してしまった場合に認められる取消しです。相手が事実と異なる情報を伝えた行為と、その情報を信じて放棄に至った因果関係の両方が必要となります。

例えば長男が「父の遺産は借金しかなく、不動産も担保に入っていて何も残らない」と弟妹に説明し、それを信じた弟妹が放棄したケースで、後から実際は不動産に十分な価値があり長男が一人で財産を取得していたと判明した場合、弟妹は詐欺を理由に取消しを主張できる可能性があります。ただし「言った・言わない」の水掛け論になるケースが多く、メールやLINEなどの記録、目撃者の証言などを早期に保全することが求められます。

強迫による取消の具体例

強迫による取消しとは、害悪を示して畏怖を抱かせる行為によって相続放棄を強いられた場合に認められる取消しです。相手が脅したという行為自体と、その脅しによって意思決定がゆがめられた事実があれば取消しが認められます。

例えば、相続人の一人が「放棄しなければ危害を加える」「勤務先や親族に不利益な情報を広める」など、害悪を示して他の相続人を畏怖させ、それによって相続放棄をさせた場合には、強迫を理由とする取消しが問題になります。単なる口論や家族間の感情的な対立だけで強迫に当たるとは限らないため、具体的な発言内容や当時の状況を確認する必要があります。強迫の事実を立証するためには脅迫の場面を録音した音声や文面、第三者の証言などが証拠となります。

⑤後見監督人がいるのに同意を得ずに代理放棄したケース

成年後見人や未成年後見人が、後見監督人が選任されているにもかかわらず、その同意を得ずに被後見人を代理して相続放棄をした場合、その放棄は取消しの対象となります。後見監督人がいる場合、後見人が被後見人に代わって相続放棄などの重要な行為をするには後見監督人の同意が必要であり(民法864条)、同意を得ずにした行為は取り消せるとされている(民法865条)ためです。

例えば認知症の祖母に成年後見人として叔父が選任されており、さらに後見監督人として弁護士が選任されている家庭で、叔父が監督人に相談せずに祖母の相続放棄を代理で行ったケースが該当します。後見監督人が選任されている家族に相続が発生した際は、必ず監督人と連絡を取り合うことが大切です。

相続放棄の取消には6か月と10年の期限がある

相続放棄の取消しには厳格な期限が定められています。民法919条3項が「前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする」と定めており、二段階の期限制限が存在します。

期限を過ぎると取消権そのものが消滅し、本来取り戻せたはずの遺産も取り戻せなくなります。

追認できる時から6か月以内に申述しないと時効で消滅する

相続放棄の取消しができる第一の期限は、追認できる時から6か月です。この期間は短期消滅時効と呼ばれ、取消事由があると気づいてから速やかに行動しないと権利を失う仕組みになっています。

「追認できる時」とは、取消しの原因となっていた状況がなくなり、かつ取消権を有することを知った時をいいます。たとえば、詐欺の場合は詐欺に気づき取消しができることを認識した時、強迫の場合は強迫状態から脱したうえで取消しができることを認識した時が問題になります。未成年者や成年被後見人などのケースでは、本人の能力回復や法定代理人等の関与も踏まえて、個別に起算点を確認する必要があります。

「家族と相談する時間が必要」「他の相続人の態度を見極めてから動きたい」と迷っているうちに6か月が経過してしまうケースは少なくありません。証拠の保全、必要書類の準備、家庭裁判所への申述まで6か月以内に完了させる必要があります。

相続放棄から10年経過すると除斥期間で取消権が消滅する

相続放棄の取消しには、6か月の短期時効に加えて、相続放棄をした時から10年という長期の期限も定められています。これは除斥期間と呼ばれ、6か月の時効が進行していなくても、放棄から10年が経過すれば取消権が当然に消滅します。

例えば未成年の時に親の同意なく相続放棄をしてしまった人が後に成年になっても、放棄から10年以上が経過していれば取消しはできません。10年というと長く感じられるかもしれませんが、相続をめぐる事情は時間とともに変化し、取消事由に気づくのが遅れるケースは多く存在します。

期限を過ぎると相続放棄の取消は主張できなくなる

6か月の時効または10年の除斥期間を過ぎると、取消事由があったとしても相続放棄の取消しを主張することは難しくなります。取消事由がある可能性に気づいた場合は、証拠や戸籍資料の確認に時間がかかることもあるため、早めに方針を確認することが大切です。

なお、これから相続放棄を検討されている方には、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月という別の期限があります。熟慮期間を過ぎてしまうと単純承認とみなされ、被相続人の借金もすべて引き継ぐことになります。

期限が迫っている方、すでに過ぎてしまった可能性のある方、債権者から連絡が届いている方は、当事務所までお早めにご相談ください。

相続放棄の取消は家庭裁判所への申述で行う

相続放棄の取消しを行うには、家庭裁判所に対して「相続放棄取消申述書」を提出する必要があります。単に他の相続人や債権者に取消しの意思を伝えるだけでは、相続放棄を取り消したことにはなりません。民法919条4項により、相続放棄の取消しをするには、その旨を家庭裁判所に申述する必要があります。

取消申述書のほか戸籍謄本や取消事由の証拠資料が必要

相続放棄取消申述書を家庭裁判所に提出する際には、申述書本体のほかに戸籍謄本や取消事由の証拠資料など複数の付属書類を揃える必要があります。実際に申述する際は管轄の家庭裁判所に確認してください。

取消事由を示す資料はケースごとに異なります。詐欺や強迫であれば虚偽情報や脅迫の経緯を示すメール・音声記録・第三者の証言など、未成年者や被後見人の単独放棄であれば制限行為能力者であったことや同意者の同意がなかったことを示す資料が求められます。

書類に不備があると補正を求められ、補正が間に合わないと却下される可能性もあります。

申述先と申述から受理までの流れ

相続放棄の取消申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。最初に相続放棄の申述を行った家庭裁判所と同じです。手続の流れは次の通りです。

  1. 取消事由を確認し証拠資料を収集する
  2. 申述書を作成し必要書類を揃える
  3. 管轄の家庭裁判所に申述書等必要書類を提出する
  4. 家庭裁判所から照会書が送付された場合には照会書に回答。裁判所で審問が行われる場合は審問。家庭裁判所が受理または却下を判断する

受理までの所要期間は、書類が揃っていてスムーズに進んだ場合でも通常1〜2か月程度かかります。

家庭裁判所から照会書が届いた場合は、取消事由や期限内の申述であることを具体的に回答する必要があります。

申述が受理されても訴訟で取消の効果が争われる可能性がある

相続放棄の取消の申述が家庭裁判所に受理されると、手続上は取消の効果が生じます。ただし、受理審判によって取消事由の有無が最終的に確定するわけではないため、他の相続人や債権者との間で、後の訴訟において取消しの効力が争われる可能性は残ります。

取消によって不利益を受ける他の相続人や債権者が、裁判所に「相続放棄の取消しは無効だ」として訴訟を提起することがあります。この訴訟では、取消事由が本当に存在したのか、6か月の期間内に取消しが行われたのかなど、家庭裁判所の審査よりもさらに厳格な判断がなされます。受理後も証拠の保全を続ける長期的な対応が欠かせません。

相続放棄の取消しは認められる場面が限られ、証拠や期限の確認も必要です。

当事務所では、これから相続放棄を依頼したい方、期限が迫っている方、債権者対応を含めて任せたい方からのご相談をお受けしております。

相続放棄が無効になるケースは取消とは別の概念

無効と取消しは混同されがちですが、法律上は明確に異なる概念です。無効は、最初から法律行為としての効力が生じていない状態を指します。もっとも、他の相続人や債権者との間で無効かどうかに争いがある場合には、訴訟などで無効を主張・立証する必要が生じることがあります。

本人意思によらない放棄は無効になる

相続放棄が無効になる典型的なケースは本人の意思によらない放棄です。

家族が本人に無断で申述書を作成・提出したケース、本人に同意のないまま代筆されたケースも無効となります。

家庭裁判所は申述書の形式と添付書類の確認を行うのみで、本人の意思能力や同意の有無まで詳細に確認するわけではないため、受理されたからといって有効性が完全に保証されるわけではない点には注意が必要です。

生前の放棄契約

生前贈与を受けた長男が他の兄弟に「将来父が亡くなっても相続は放棄します」と一筆書いたとしても、その約束は相続発生時には無効です。相続放棄は相続が開始した後でなければできない手続だからです。

なお、相続開始前に家庭裁判所の許可を得て行う「遺留分の放棄」と、相続開始後に行う「相続放棄」は別の制度ですので、混同しないようご注意ください。

債権者から無効を主張された場合の対応方法

被相続人にお金を貸していた債権者が、相続人による相続放棄が「無効だ」と主張するケースがあります。代表的な主張は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月を経過してから放棄しており、すでに単純承認したものとみなされる」「相続人が遺品を処分しているため法定単純承認が成立している」といったものです。

債権者から請求があった場合は、まず相続放棄申述受理通知書または受理証明書を提示します。それでも債権者が納得をせず訴訟提起された場合は、期限内に答弁書を提出し、3か月以内であった事情や処分行為がなかったことを立証する必要があります。

相続放棄のご依頼を検討中の方は当事務所の安心放棄へご相談ください

相続放棄は一度受理されると原則として撤回ができないため、最初の判断と手続を正確に進めることが大切です。

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多数の相続放棄案件に対応してきた弁護士が、ご相談から手続完了までを担当いたします。ご来所は不要で、書類のやり取りはすべて郵送・メールで完結いたします。

初回相談は無料で、テレビ電話によるご相談にも対応しております。お電話は平日9時から22時まで、土日も20時まで受付しております。

2026.06.22牧野美絵

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