電子契約の最新動向と企業が知るべきポイント
1 はじめに
ペーパーレスや業務のオンライン化が標準となりつつある現代において、契約業務の電子化は多くの企業にとって重要な課題となっています。
特に2022年5月に施行された宅地建物取引業法及び借地借家法の改正法により、これまで書面が必須とされてきた不動産取引関連の契約が電子化の対象となり、活用の幅が大きく広がりました。
本コラムでは、電子契約に関する最新の法改正のポイントと、企業が導入する上での実務的な注意点を解説します。
2 法改正による不動産契約の全面的な電子化
今回の大きな動向として、宅地建物取引業法および借地借家法の改正が挙げられます。これにより、これまで書面での交付が義務付けられていた以下の書類が、相手方の承諾を得ることを条件に電子データでの提供が可能となりました。
(1)重要事項説明書(宅地建物取引業法第35条)
(2)売買・賃貸借契約締結後の交付書面(宅地建物取引業法第37条)
(3)媒介・代理契約締結時の交付書面(宅地建物取引業法第34条の2)
この改正により、宅地建物取引士の押印義務も廃止され、記名のみで足りることになりました。結果として、不動産の売買や賃貸借に関する一連の手続きを、契約書の作成から締結、保管まで含めてオンラインで完結させることが可能になったのです。
3 電子契約のメリットと実務上の注意点
(1)メリット
電子契約を導入することで、企業は多くのメリットを享受できます。
・コスト削減: 契約書に貼付が必要な印紙税が不要になります。また、印刷代、郵送費、保管スペースにかかる費用も削減できます。
・業務効率化: 契約書の印刷、製本、押印、郵送といった手間がなくなり、契約締結までの時間が大幅に短縮されます。
・コンプライアンス強化: 契約書の検索性が向上し、管理が容易になるため、契約更新の漏れや紛失リスクを防ぎます。
・リモートワークへの対応: 場所を選ばずに契約業務を行えるため、多様な働き方に柔軟に対応できます。
(2)デメリットと注意点
一方で、導入にあたっては以下の点に留意が必要です。
・取引先の同意: 電子契約を締結するには、相手方の同意が不可欠です。取引先が電子契約システムを導入していない場合や、電子化に難色を示す場合に備え、丁寧な説明と理解を求めるプロセスが重要になります。
・社内体制の整備: 従来の押印を中心としたワークフローからの変更が必要となり、社内規程の見直しや従業員への研修が求められます。
・セキュリティリスク: 電子データであるため、サイバー攻撃による情報漏洩や改ざんのリスクが伴います。信頼性の高い電子契約サービスを選定し、適切なセキュリティ対策を講じることが不可欠です。
・バックデートの不可: 電子署名にはタイムスタンプが付与されるため、契約締結日を遡って設定(バックデート)することはできません。
4 最後に
電子契約の導入は、企業の競争力を高める上で非常に有効な手段です。不動産取引の電子化解禁は、その流れをさらに後押しするでしょう。
しかし、そのメリットを最大限に活かすためには、法的な要件や実務上の注意点を正しく理解し、自社に合った形で導入を進めることが肝心です。
電子契約への移行を検討される際には、法的リスクを適切に管理するためにも、一度弁護士へご相談いただくことをお勧めします。
新法に関する対応のアドバイスについては、顧問料の範囲内でご対応させていただきます。