- 引抜き禁止条項及び違約金条項の重要性
少子高齢化の影響により、あらゆる業界で「人材」の価値が上昇しています。かつてのように代わりの人材がすぐに見つかる時代ではなくなり、今や優秀な人材やノウハウを持つスタッフは、極めて重要な「資産」です。こうした情勢下において、退職者による従業員の引抜き行為は、自社の「資産」に対する重大なリスクとなります。
こうしたリスクから会社を守るためには、雇用契約書や就業規則において、在職時及び退職後の引抜き行為を禁止する条項を定めることが極めて重要です。
しかし、しっかりと引抜き禁止条項を定めていた場合でも、いざ引抜き行為が行われたときにその損害を具体的に立証することは、実務上は極めて困難であることが多いです。このため、単に引抜き禁止条項を定めるだけでは、その引抜きの予防としては十分ではありません。
したがって、単に禁止するだけでなく、上記の条項に反した場合に請求する違約金をあらかじめ具体的に定めておくことで、実効性を高め、さらに効果的に引抜き行為を予防することができます。
- 引き抜き禁止条項の記載例
以下は、引抜き禁止条項および違約金条項の文言の一例です。
①従業員との間の誓約書における記載例
第■条(引抜き・勧誘行為の禁止)
1.私は、在職中はもちろん、貴社からの離職後■年間は、自らの事業のため、又は第三者が行う事業のために、貴社従業員(貴社に在籍している従業員及び貴社を離職してから1年以内の人を指す。以下同じ。)に対する勧誘・採用活動を行わず、また、貴社従業員から雇用契約又は業務委託契約を締結する希望があっても、貴社の従業員とは、自ら一切の契約(特に、雇用又は業務委託契約を指すが、それに限られない。)を締結せず、第三者に貴社従業員との間で何らかの契約(特に、雇用又は業務委託契約を指すが、それに限られない。以下同じ。)を締結させたり、第三者と貴社従業員との間の何らかの契約の締結を仲介又は援助することをしません。
2.私が前項に反する行為を行った場合には、その違反行為1回につき、貴社から受領した最終の■ヶ月分の給与(額面金額。諸手当含む)と同額の金額を違約金として貴社に対して支払い、それ以上の損害が貴社に発生した場合はその損害(弁護士費用その他訴訟関連費用を含む)を賠償します。
②業務委託契約における記載例
第■条(他社の従業員の勧誘等の禁止)
受託者(受託者の提供する人材も含む)は、本契約の有効期間中またはその終了後■年間は、委託者の従業員、スタッフその他の人材に対し、自社又は他社のために業務を提供すること(雇用、業務委託、その他一切の法形式を問わず、有償か無償かを問わない。以下同じ。)を勧誘、誘因、提案してはならない。受託者又は受託者の提供する人材が本条に反した場合は、受託者は、委託者に対して、直近1年間の受託者の業務委託料の合計と同額の違約金を請求することができる。
- 設定時の注意点
違約金の額が、会社に生じる損害や業界の相場に比べて著しく過大である場合、公序良俗に反し無効と判断されるリスクがあります。例えば、業務委託契約であれば「年収1年分」、「委託料の6ヶ月分」など、合理的根拠のある設定が望ましいです。
また、「永久に禁止」といった無制限な条項は、職業選択の自由を過度に制限するものであるとして、無効になる可能性が高いです。したがって、「退職後1年~2年」「競合する事業者への勧誘に限る」など、必要最小限の範囲に留めることが、同条項の有効性を確保するために重要です。
- 最後に
人手不足が進む現代において、引き抜き禁止条項と違約金条項は、その重要性をさらに増していますが、制約が強すぎる条項は、無効となってしまうリスクもはらんでいるため、貴社の業態や守るべき人材の性質に合わせ、適切な内容で引抜き禁止条項を設定する必要があります。現在の契約書内容が今の時代に適応できているか、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。