責任役員会の招集権者

宗教法人法においては,責任役員が,宗教法人の事務を決定することとされており(同法18条4項),宗教法人の事務は,原則として,責任役員の定数の過半数で決定することとされておりますので(同法19条),宗教法人における責任役員会は,株式会社における取締役会と同様の機能を有しております。

しかしながら,責任役員と代表役員との間で対立があったり,代表役員が他の責任役員を無視しているなどの紛争状態にある場合には,責任役員会が開催されないまま,宗教法人としての事務が行われてしまっているというケースもしばしば見受けられます。こうした場合,責任役員としては,どのように対応すればよいでしょうか。

 

1 通常時の招集権者

 

一般に,宗教法人の規則において,責任役員会を設置するとの定めがある場合,招集権者についても,「代表役員が責任役員会を招集する」等の条項が定められているのが通常です。

したがって,通常時においては,宗教法人の規則に従って,招集権を有するとされている者が,各責任役員に対して,開催場所,開催日時,会議の目的事項等を記載した招集通知を発送して,責任役員会を招集することとなります。

なお,宗教法人法上,責任役員を3名以上置くことは義務付けられておりますが(同法18条1項),責任役員会を設置することが義務付けられているわけではありませんので,宗教法人の規則において,責任役員会を設置するとの定めがなければ,必ずしも責任役員会を開催する必要はありません。他方,責任役員会を設置するとの定めを置く場合には,規則に従って,責任役員会の決議により,宗教法人の事務を決定しなければなりません。

 

2 責任役員の一人に,招集権が認められるか?

 

以上に対して,代表役員と責任役員との間で対立が生じるなどして,代表役員が責任役員会を招集しないという態度をとった場合,規則に定められた招集権者以外の責任役員において,責任役員会を招集することは可能でしょうか?

この点については,代表役員以外の責任役員も責任役員会の構成員である以上,本来代表役員以外の各責任役員にも招集権があると考えられますので,各責任役員は,必要と考えた場合には,規則で定めた招集権者に理由を付して責任役員会を開催するよう求めることができるのは当然です。

そして,招集権者が,責任役員から責任役員会の開催を求められたにもかかわらず,一定期間内に責任役員会を開催しない場合には,招集請求をした責任役員が自ら招集することができると解すべきです。(宗教法制研究会編集「Q&A宗教法人を巡る法律実務」(新日本法規)364の1頁参照)。

この点に関連して,大阪地判平成24年7月27日判タ1386・335は,次の通り,判示しています。

つまり,同判決は,規則に,「責任役員の過半数の請求があったときは,責任役員会を招集しなければならない」との条項が定められたある宗教法人において,招集権者でない責任役員が招集した責任役員会の有効性が問題となった事案について,

「被告の責任役員会の招集権者は代表役員であるとされている(本件規則一〇条三項)。

もっとも,責任役員による責任役員会の招集請求権について定めた本件規則一〇条四項は,代表役員による責任役員会の招集(開催)拒否といった事態について,何らの定めも置いていない。

ア しかし,本来の招集権者でない者に招集請求権を認めつつ,他方において,本来の招集権者による招集(開催)拒否といった事態に際し,招集請求権を行使した者が招集(開催)に向けた実効性ある手立てを取り得ないというのでは意味がない。

イ また,被告が責任役員による合議制に重きをおいた組織であること(前記二(1)ア),本件規則一〇条四項の招集請求が,事務決定の要件(本件規則一 〇条二項)と同じ責任役員の定数の過半数による請求を要件としていることに照らすならば,事務決定の前提となる責任役員会の開催は,できる限り確保されることが望ましい。

ウ そもそも,招集権者でない者によって招集された会議が法律上存在するものと認められないのは,招集権者でない者によって招集された会議には,当該法人の会議体としての正当性がないからである。

この点,規則に基づく責任役員会の招集請求とそれに引き続く招集(開催)拒否の事実を前提として,招集請求権を行使した者からの招集通知があった場合,当該招集通知に係る責任役員会が当該法人の会議体としての正当性に欠けるということはできない。

エ したがって,被告において,本来の招集権者である代表役員が本件規則一〇条四項に基づく適法な招集請求を受けたにもかかわらず責任役員会の招集(開催)をしない場合,招集請求権を行使した者は,自ら責任役員会の招集をすることができると認めるのが相当である(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律九三条三項参照)。」

と判示し,ある責任役員が招集権者である代表役員以外の責任役員全員の同意を得て行った招集通知に基づいて開催された責任役員会について,「招集権限を有する者によって招集された責任役員会であるといえ,この点につき瑕疵があるとは認められない」と判示しております。

 

3 まとめ

 

以上の通り,宗教法人の規則に責任役員会を設置する定めを置く場合には,事務の混乱を回避するためにも,①責任役員会の招集権を誰に与えるのか,②招集権者が責任役員会の開催に応じない場合,どのように対処するのかについて,明確に定めておくことが望ましいと思われます。

もっとも,仮に,②の点について規則に定めがない場合であっても,上述2の通り,招集権者員以外の責任役員も,規則で定められた招集権者に対して,責任役員会を開催するよう請求することができ,それでもなお,招集権者が責任役員会を開催しない場合には,自ら,責任役員会を招集することができると考えます。

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