宗教法人による不動産等の処分

1 宗教法人による財産等の処分―宗教法人法第23条の規律

 

(1)不動産の処分の意義

 

宗教法人が不動産又は財産目録に掲げる宝物(以下、「不動産等」といいます。)の処分を行う場合、宗教法人法(以下、「法」といいます。)第23条第1号により、「規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、第19条の規定)による外、その行為の少くとも1月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告」しなければないこととされています。

 

法第23条第1号にいう「不動産」については、境内地・境外地を問わず、また境内建物・境外建物を問わないと解されています。この点について、後述する広島高判昭和40年5月19日高裁民集18・3・233は、境外地における採石権の設定を目的とする「はんれい岩」採取契約が、同条にいう「不動産の処分」に当たると判示しています。

 

また、法第23条第1号にいう「処分」には、売買、交換、放棄、永小作権の設定、地上権の設定などが含まれます。

賃貸借契約の締結については、単なる管理行為である短期賃貸借は「処分」に該当しませんが(東京地判昭和42年9月14日判時500・47参照)、民法第602条の反対解釈により、土地について同条所定の存続期間(5年)を超える長期の賃貸借契約は、「処分」に該当すると解されています。この点については、最高裁昭和37年7月20日判決民集16・6・1632が、宗教法人法の前身である宗教法人令第11条にいう不動産の処分に関して、「建物所有を目的とし、民法第602条所定の存続期間をこえる土地の賃貸借契約は、宗教法人令第11条にいう不動産の処分にあたる。」と判示しています。

 

(2)手続

 

宗教法人が以上の不動産等の処分を行う場合、法第23条により、

①規則の定めに従った手続(包括宗教法人の承認などが考えられます)

②規則に別段の定めがないときは、責任役員の定数の過半数の決議(法第19条)

のいずれかに加えて、

③行為の1か月前に、信者その他の利害関係者に対する公告

という手続を経る必要があります。

 

2 宗教法人法第23条に違反する行為の効力

 

(1)境内建物・境内地又は宝物の処分

 

宗教法人が、法第23条の規定に違反して、不動産等の処分を行った場合の当該処分行為の効力については、法第24条が規定しています。

 

つまり、法第24条は、「宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について、前条の規定に違反してした行為は、無効とする。但し、善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない。」と規定しています。

そのため、宗教法人が、法第23条に規定する手続を履践せずに、「宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物」の処分を行った場合、当該処分等の効力は、原則として無効となります。

但し、例外として、処分等の相手方が善意であった場合、すなわち、法第23条に規定された手続を経ていないことを知らなかった場合には、当該処分等は、有効となります(もっとも、ここでいう「善意」については、判例上、「善意であっても重大な過失のある相手方又は第三者までも保護する趣旨のものではない」(最判昭和47年11月28日判時690・42)と解されていますので、結局、法24条但書により保護されるのは、処分等の相手方が善意無重過失であった場合に限られることとなります。)。

 

 

(2)境外地の処分

 

 以上に対し、法第24条は、境外地の売買や長期賃貸借契約の締結のように、法第24条に規定されていない財産につき、法第23条に違反して処分等が行われた場合の効力については規定していません。そのため、法第24条に規定されていない境外地等の財産について法第23条に違反して処分等が行われた場合の当該処分等の効力については、解釈に委ねられることとなります。

 

この点については、上述の広島高裁昭和40年5月19日判決が、以下の通り、判示しています。

すなわち、広島高裁判決は、ある宗教法人が境外地において採石権の設定を目的とする「はんれい岩」採取契約を締結したという事案について、「宗教法人第24条が宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について第23条の規定に違反してした行為は無効とする旨定め、第23条に違反する行為のうち無効となる場合を限定している趣旨から考えれば、境外地である不動産の処分については、宗教法人の代表役員がたとえ、第23条の規定に違反して、所定の公告を経ず又は前記第19条或いは宗教法人の規則所定の責任役員の決議を経ないで処分した場合にも、第24条の規定の適用がなく、その代表役員が過料の制裁を受け或は法人に対し内部的な責任を負う場合があるとしても、その処分行為は無効とはならない」と判示しています。

 

そして、この広島高裁判決以外にも、法第23条に違反してなされた境外地の不動産の処分について、無効とはならないと判示した裁判例として、東京地判昭和34年1月27日下民集10・1・177、京都地判昭和42年5月10日判時501・86などがあります。

 

以上の通り、過去の裁判例に鑑みれば、法第24条に規定されていない境外地等の処分行為については、法23条に違反してなされたものであったとしても、無効にはならないものと思われます。

 

3 宗教法人法第23条に違反した場合の制裁

 

以上の通り、宗教法人が、法第23条に定める手続を履践せずに、財産の処分を行ったとしても、当該処分行為が、必ずしも、無効になるとは限りません。

 

もっとも、代表役員は、法第23条の規定に違反して、同条の規定による公告をしないで不動産等の処分などを行った場合、10万円以下の過料の制裁を受けることとなります(法第88条第3号)。

 

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