散骨とは

1 散骨とは

 

 一般に,「散骨」(「撒骨」と表記されることもあります。)とは,「死者の遺骨を粉にして海や山へまく葬礼」のことを言います(「広辞苑」(第7版)参照)。

 この散骨という葬礼方法については,インターネットで検索すると,代行業者などが多数ヒットしますが,散骨の法的位置付けなどについて,紹介させていただきたいと思います。

 

2 散骨の法的位置付け

 

(1)墓地,埋葬等に関する法律について

 

 現在,死者の葬礼方法に関する法律としては,墓地,埋葬等に関する法律(以下,「墓埋法」といいます。)が制定されておりますが,墓埋法には,火葬及び土葬についての規定しかなく,散骨という葬礼方法については規定がありません。

 そのため,散骨については,法律上の規定がない(したがって,火葬や土葬について必要となる墓埋法上の許可についても,散骨については問題とならない。)のが現状となっております。但し,後述するように,一部地方公共団体においては,散骨を規制する条例等が制定されております。

 

 なお,この点については,過去に,散骨を推進する団体が散骨を行った際に,同団体が法務省に確認を行ったところ,法務省刑事局が遺骨遺棄罪を定める刑法190条の解釈に関して,「節度をもった葬送の一つとして行われる限り違法ではない」と回答したことを根拠に,散骨について,節度をもって行われる限り,違法ではないとの報道がなされた(平成3年10月16日付朝日新聞朝刊)という経緯もあり,一般に,「散骨が合法である」と言われることもありますが,散骨については,墓埋法の規制対象となっていないというのが正確な理解であると思われます。

 

 以上の状況を踏まえ,一部地方公共団体においては,散骨を規制する条例等が制定されております。

 例えば,神奈川県の湯河原町は,「湯河原町散骨場の経営の許可等に関する条例」を制定し,散骨場の経営に町の許可を必要としていますし,北海道の七飯町は,「七飯町の葬法に関する要綱」を制定し,学校等の施設から一定区域内で,散骨などの「法定外の葬法」に関する事業を行わないよう指導しているなど,散骨について,独自の規定を設けている地方公共団体も複数存在しています。

 

(2)刑法190条死体損壊等罪について

 

 また,散骨については,刑法190条の遺骨遺棄罪により罰せられる可能性のある行為であることに注意が必要です。

 

 上述の通り,刑法190条の解釈に関しては,法務省刑事局は,同条の規定は,社会的習俗としての宗教的感情などを保護するのが目的であるため,葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題ないとの見解を取っております(但し,この法務省の見解は,あくまで,刑法190条の一般的な解釈についての見解に過ぎません。)。

 

 しかしながら,散骨については,刑法190条の遺骨遺棄罪の構成要件に該当することは否定できませんし,現在の日本においては,散骨という葬礼方法が,広く国民に認知され,葬礼方法の一つとして受け入れられているという状況でもないと思われますので,散骨を行ったことについて,刑事責任を問われる可能性は十分あるものと思われます。

 

 ※刑法190条

 「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。」

 

3 宗教法人(受け入れ側)の対応について

 

 以上のような状況の中,宗教法人に対しては,信者の方や墓地利用者の方から,「散骨をしたい」という要望が寄せられることもあるのではないかと思います。

 こうした場合,まずは,散骨について,宗教法人の所在する地方公共団体において,散骨に関する条例が存在するか,存在するとして,条例上の規制をクリアしているかという点を確認する必要があります。

 その上で,信者などが,宗教法人の管理する土地や墓地内において,散骨をすることを希望しているという場合には,所有者ないし管理者としての立場から,信者らが散骨することを認めるか否かという問題に帰結することになるかと思われます(宗教法人の教義・戒律や,他の信者・利用者との関係で,所有者ないし管理者として,散骨を認めてよいのかという問題に帰着すると思われます。)。

 

 具体的な対応に困られた場合には,お気軽にお問い合わせください。

 

 

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