納骨堂の経営許可について

納骨堂の経営許可について

弁護士 武田雄司

ポイント

1.納骨堂の経営には都道府県知事又は市若しくは特別区にあっては市長又は区長の許可が必要。

 

2.都道府県知事等許可権者には広範な行政裁量権が与えられており、正当かつ合理的な理由があれば許可しないことができる。

※永続性(安定的な経営・管理)の確保等の利用者の保護、需給バランスの確保、周辺の生活環境との調和等の公共の福祉との調整が重要のポイントであり、安定した適切な運営ができるか審査し、不適切な申請については利用者保護の観点から許可しないことも十分ありうる。

 

3.経営主体は、基本的には市町村等の地方公共団体が原則であり、これによりがたい事情があっても宗教法人又は公益法人等に限られる。

※名義貸しは当然不可。

 

4.各都市において、個別に設置距離規制や許可に関する細則が設定されている場合が多く、実際に申請する際は、各都市における調査が必要。

 

5.無許可経営については六箇月以下の懲役(又は五千円以下の罰金)の刑罰が設定されており、無許可経営に対しては実際に処罰されることも。

 

 

第1 はじめに

広い墓地を確保できない一方で、納骨を求める檀家さん等の要望に応えるために、納骨堂の建設をお考えになる宗教法人の方が増えてきたように感じます。

 

そこで、本稿では、納骨堂の経営に関する情報をまとめてご提供致します。

 

第2 納骨堂経営の許可について

1.定義

「納骨堂」とは、「他人の委託をうけて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事(市又は特別区にあっては、市長又は区長)の許可を受けた施設をいう。」と定義されています(「墓地、埋葬等に関する法律」2条6項)。

 

焼骨を収蔵する施設であれば、限定的に運用しているもの(例えば、養護老人ホーム等の施設の身寄りのない者から依頼を受けてその者の死後に焼骨を収蔵・管理する場合)であっても、「墓地、埋葬等に関する法律」の適用があり、許可をとる必要があるため(厚生労働省HP: 納骨堂の許可について(昭和四三年一〇月二二日)(発衛第四四一号)(厚生省環境衛生課長あて鳥取県厚生部長照会))注意が必要です。

 

2.許可制

納骨堂を経営するためには、都道府県知事(市又は特別区にあっては、市長又は区長)の許可を受ける必要があります(「墓地、埋葬等に関する法律」10条1項)。

 

3.許可基準

(1)厚生労働省の指針

許可基準については、少し古いものの、平成12年12月6日に厚生労働省(当時の厚生省)から「墓地経営・管理の指針等について」が公表されています。

当該指針等は、基本的には「墓地」の関する経営・管理指針とされていますが、後述する各都市における規制では、当該「墓地経営・管理の指針等について」を納骨堂の経営許可を出すか否かの判断基準としている都市も多く、納骨堂であっても、基本的には墓地と同様の基準で判断されるものと考えておくことがいいのではないかと考えています。

 

(2)許可側の視点・考慮要素

許可をする側である知事等が考慮するべき要素として次の点が挙げられています。

 

・ 正当かつ合理的な理由があれば許可しないことができる。安定した適切な運営ができるか審査し、不適切な申請については利用者保護の観点から許可しないことが重要。

・ 墓地埋葬法の目的は、墓地の管理及び埋葬等が「国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われること」。

・ 近年の火葬率の上昇にかんがみると、公衆衛生以外の部分、例えば墓地の永続性(安定的な経営・管理)の確保等の利用者の保護、需給バランスの確保、周辺の生活環境との調和等の公共の福祉との調整が重要。この調整は、諸般の事情を総合的に勘案して判断せざるを得ず、一律の基準を定めることが困難であるため、広範な行政裁量権に委ねられているもの。

・ 地方公共団体が墓地を設置経営することも重要な住民サービス。住民のニーズを十分に検討した上で、自ら設置、経営することを含めて、主体的にその要否を判断すべき。都市計画の中で墓地について配慮されることも重要。

 

(3)具合的許可基準

以上のような視点から、当該指針によれば、具体的な許可基準は次のとおりまとめられています。

・ 墓地経営者には、利用者を尊重した高い倫理性が求められること。

・ 経営・管理を行う組織・責任体制が明確にされていること。

・ 計画段階で許可権者との協議を開始すること。

・ 墓地経営主体は市町村等の地方公共団体が原則であり、これによりがたい事情があっても宗教法人又は公益法人等に限られること。

・ いわゆる「名義貸し」が行われていないこと。

・ 墓地の設置場所について、周辺の生活環境との調和に配慮されていること。

・ 安定的な経営を行うに足りる十分な基本財産を有していること。

・ 自ら土地を所有していること。

・ 中長期的収支見込みが適切で、将来にわたって経営管理が可能な計画を立てていること。

・ 基本的に標準契約約款に沿った明確な使用契約であること。

・ 契約に際し十分利用者に契約内容が説明されるようにすること。その前提として、契約書及び重要事項の説明書が作成されていること。

 

4.各都市における規制

各都市に許可権限等が委譲され、各都市において許可基準や提出書類を明確に規定した条例等が施行されています(各都市の状況は、総務省HPに掲載されている「地域における墓地埋葬行政をめぐる課題と地域と調和した対応に関する研究平成25年度  総括・分担研究報告書」(10枚目~)に詳しく記載されています。)。

 

例えば、京都市では、「京都市墓地、埋葬等に関する法律施行細則」、「墓地等の経営の許可等に関する規則」や「京都市墓地等許可取扱要項」(抜粋)の規定が公表されています。

 

墓地等の経営の許可等に関する規則」では、納骨堂の設置場所及び構造設備の基準が次のとおり定められています。

 

■設置場所の基準(別表第1

1 鉄道又は国道、府道その他交通の頻繁な道路に接近した場所でないこと。

2 病院、学校その他公共的施設又は人家若しくは集落に接近した場所でないこと。

3 飲料水源又は河川に接近した場所でないこと。

4 地形上危険な場所でないこと。

 

■構造設備の基準(別表2

1 周囲の景観と調和していること。

2 耐火構造又は準耐火構造とし、内部の設備には不燃材料を用いること。

3 消火及び防火のための設備を設けること。

4 換気設備を設けること。

5 出入口及び納骨設備は、施錠ができる構造であること。

6 納骨堂の周囲に相当の空地を確保し、かつ、植樹、塀等によって隣接地との境界を明らかにすること。

7 納骨堂の規模に応じた管理事務所、給水設備、ごみ処理設備、便所、駐車場及び休憩所を設けること。

 

以上のようなルールが各都市で設定されているため、個別に調査検討が必要になります。

 

5.罰則

以上の許可を受けずに無許可で納骨堂を経営した場合には、六箇月以下の懲役(又は五千円以下の罰金)の刑罰が設定されており(「墓地、埋葬等に関する法律」20条1項1号)、法定刑は重くはありませんが、無許可経営に対しては逮捕される事例(高槻市塚脇にある宗教法人で、2012年12月~2017年9月、寺院内に同市の許可なく納骨堂を設置し、男女3人から遺骨を預かる対価として計90万円を受け取った疑いで送検されている。記事によると、寺の関係者が2016年8月、警察に告発し発覚したということ。)があることからもわかるとおり、無許可経営をすることは厳に禁止されています。

 

6.周辺住民とのトラブル―取消訴訟の可能性

基準を充たし許可が受けたとしても、「住宅密集地での納骨堂建設を大阪市が許可したのは違法だとして、建設予定地の大阪市淀川区の住民ら10人が平成29年8月25日、市を相手取り、許可処分の取り消しを求めて大阪地裁に提訴した。」というニュースのとおり、周辺住民とのトラブルが高じて、取消訴訟を提起される可能性もあり得るところです。

 

実際の裁判例としても、納骨堂や墓地経営の許可をした市を相手に、許可処分の取り消しの訴えがなされた裁判が散見。

 

もっとも、いずれの裁判も、原告適格(裁判をする資格の問題)が認められずに却下される事例や(①平成12年3月17日/最高裁判所第二小法廷/判決/平成10年(行ツ)10号、②平成23年5月27日/福岡高等裁判所/第3民事部/判決/平成19年(行コ)33号)、原告適格は認められたものの、構造設備及び管理の基準等に関する条例が定める許可要件に適合しており、裁量権の逸脱・濫用はないとして、取消が認められない事例(平成22年4月16日/東京地方裁判所/民事第38部/判決/平成21年(行ウ)46号)であり、周辺住民の訴えが認めらえるハードルは相当高いようには感じます。

 

とはいえ、許可を得る過程において、周辺住民との十分な調整ができなければ、許可を得た後も、このようなトラブルが続く可能性がある点には十分に注意が必要になるところです。

以上

(弁護士 武田雄司)

一覧に戻る