宗教法人の管理・運営(3) (宗教法人の備付書類)
前回までは、宗教法人の管理運営の前提となる宗教法人の機関について述べてきましたが、今回は宗教法人の備付書類について述べたいと思います。
1.備付書類について
宗教法人法では以下の書類及び帳簿を作成して事務所に備え付けなければならないとされています(宗教法人法25条1項、2項)。なお、備え付ける書類等は、原則として最新のものでなければなりません。
(1)規則及び認証書
まず、所轄庁の認証を受けた宗教法人の規則の原本を事務所に備え付けておかねばならないとされています(宗教法人法25条2項1号)。備え付けておかなければならないのは、最新の規則(変更認証を受けた場合は,その都度変更した内容を反映させたもの)の全文です。
なお、規則及び認証書を紛失した場合は、所轄庁から規則及び認証書の謄本の交付を受けて、それを備え付けるようにしてください。
(2)役員名簿
宗教法人の役員名簿についても事務所に備え付けなければならないとされています(宗教法人法25条2項2号)。役員名簿を備え付けなければならないとされたのは、宗教法人の運営に責任を負う人を明らかにするためです。
宗教法人は、役員名簿に記載しなければならない役員としては、代表役員、責任役員のほか、規則で定める機関等で、監事も含みます。
(3)財産目録、収支計算書、貸借対照表
ア.財産目録
宗教法人は、設立(合併に因る設立を含む。)の時と、毎会計年度終了後三月以内に財産目録を作成し、事務所に備え付けなければならないとされています(宗教法人法25条1項、2項3号)。これは、宗教法人の財産管理の適正を図るためです。
財産目録には、宗教法人の全ての財産、すなわち資産(土地、建物、現金、預金等)と負債(借入金等)の明細を記載しなければなりません。
イ.収支計算書
宗教法人は、毎会計年度終了後三月以内に収支計算書を作成し、事務所に備え付けなければならないとされています(宗教法人法25条1項、2項3号)。
収支計算書とは、宗教法人の会計年度における収入と支出を表に記載したものです。
なお、収支計算書は、公益事業以外の事業(宗教法人法6条2項参照)を行っていない場合で、一会計年度における収入が8000万円以下の場合は作成を免除されています(宗教法人法附則23項、平成8年文部省告示第116号)。
ウ.貸借対照表
貸借対照表とは、会計年度末時点における宗教法人の財産を貸方(資産)と借方(負債及び資本)に分けて記載した表です。
宗教法人が、貸借対照表を作成するか否かは任意ですが、作成している場合は、これを事務所に備え付けなければならないとされています(宗教法人法25条2項3号)。
(4)境内建物(財産目録に記載されているものを除く)に関する書類
境内建物に関する書類も事務所に備え付けるものとされています(宗教法人法25条2項4号)。この書類には、敷地を異にする境内建物毎に、その名称、所在地、面積、用途、貸借関係を記載しますが、宗教法人が所有する境内建物については、財産目録に記載されますので、境内建物に関する書類に記載する境内建物は、他人から借りている境内建物のみということになります。
(5)責任役員その他規則で定める機関の議事に関する書類及び事務処理簿
責任役員会等の議事録についても事務所に備え付けなければならないとされています(宗教法人法25条2項5号)。
(6)公益事業及び公益事業以外の事業に関する書類
宗教法人は、宗教活動以外に、公益事業及び公益事業以外の事業を行うことができるとされており(宗教法人法6条)、公益事業及び公益事業以外の事業を行う場合は、それらの事業に関する書類を事務所に備え付けなければならいとされています(宗教法人法25条2項6号)。
2.備付書類の閲覧請求
宗教法人は、信者その他の利害関係人で閲覧することに正当な利益があり、閲覧請求の目的が不当な目的でない者から請求があった場合は、備付書類を閲覧させなければなりません(宗教法人法25条3項)。なお、閲覧請求の対象となるのは、宗教法人法25条1項、2項の備付書類のみで、それらの書類作成の元となった帳簿等は対象外です。
閲覧請求を認めるか否かの判断は、第一次的には宗教法人が行うこととなりますが、閲覧請求者が宗教法人の判断に納得が否かない場合は、裁判所に訴えることができますので、宗教法人はこれらの事情を考慮した上で、閲覧を認めるか否かの判断を行うことになります。いずれにしても、閲覧を認めるか否かの判断は困難を伴う場合も多いので、迷われた場合は弁護士等に相談されることをお勧めします。
3.備付書類の提出義務
宗教法人は、備付書類のうち、①役員名簿、②財産目録及び収支計算書並びに貸借対照表を作成している場合には貸借対照表、③境内建物(財産目録に記載されているものを除く。)に関する書類、④公益事業や公益事業以外の事業を行う場合には、その事業に関する書類の写しを、毎会計年度終了後4か月以内に、所轄庁に提出しなければならないとされています(ア宗教法人法25条4項)。
これらの書類の提出を怠った場合は、宗教法人の代表者は10万円以下の過料に処せられることとなりますので(宗教法人法88条5号)、ご注意ください。
弁護士 荻野伸一