宗教法人の管理・運営(1)(宗教法人の機関の概要)

今回からは、宗教法人の管理・運営について問題となりうる事項について述べていく予定ですが、今回はその前提として宗教法人の機関の概略について述べたいと思います。

 

1.はじめに

  宗教団体は、宗教法人法に基づいて宗教法人となることによって、法律上権利能力が与えられ、宗教団体(宗教法人)の名前で財産を所有・管理したり、契約をしたりすることができるようになります。この宗教法人は、住職や檀徒などの個人とは全く別の独立した存在ですので、団体としての目的を実現するために、団体を管理・運営する機関が必要となります。

 

2.責任役員、代表役員

宗教法人が必ず設置しなければならない基本的な機関については、宗教法人法が定めています。具体的には、宗教法人は、3人以上の責任役員を置かなければならず、その中から代表役員1人を定めなければなりません(宗教法人法18条1項)。

(1)責任役員

  責任役員は、「宗教法人の事務」の決定を行うための機関です。

ここにいう「宗教法人の事務」とは、第三者との取引や財産の管理など世俗的な業務の一切をいいます。「宗教法人の事務」については、宗教法人の規則に定めがない限り、責任役員の定数の過半数で決定を行います(宗教法人法19条)。この決定方法についてですが、責任役員の会議体である責任役員会の設置について、宗教法人法は何らの定めも置いてていませんので、いわゆる持ち回り決議で行っても問題はありません。

なお、法律上、責任役員は総代や信徒に限定されていませんので、信者でない者から選ぶことも可能です。

(2)代表役員

  上記の通り、「宗教法人の事務」の決定は責任役員が行いますが、責任役員の決定を執行する機関として代表役員を置く必要があります。

代表役員は、宗教法人を代表し、宗教法人の事務を総理する者をいい(宗教法人法18条3項)、責任役員の中から選任されます。また、代表役員は必ず1人に限られます。

代表役員は、あくまでも責任役員が決定した事項を執行する為の機関ですから、代表役員が「宗教法人の事務」を独断で決定することはできません。

 

3.代務者、仮代表役員、仮責任役員

  上記の責任役員及び代表役員のほかに、宗教法人法は、一定の場合に、代務者、仮代表役員、仮責任役員を置かなければならないと定めています(宗教法人法20条、21条)。

(1)代務者

  代務者とは、代表役員や責任役員が何らかの事情により欠けた場合や長期間職務を行うことができない場合に置かれる代行者で、宗教法人の事務が停滞し、宗教法人自身や第三者に悪影響をもたらすことを事前に防止することを目的としています。

宗教法人法20条は代務者を置く場合を2つ定めています。すなわち、①代表役員又は責任役員が、死亡や辞任などで欠けた場合で、 速やかにその後任者を選ぶことができないとき、及び②代表役員又は責任役員が、病気や長期旅行などで三月以上その職務を行うことができないときに代務者を置かなければならないとしています。

(2)仮代表役員、仮責任役員

  仮代表役員及び仮責任役員も代務者と同様、代表役員や責任役員に代わってその職務を行うものですが、代務者が上記3.(1)のように、緊急の場合に臨時に置かれるものであるのに対し、仮代表役員及び仮責任役員は、代表役員や責任役員の個人の利益と宗教法人の利益とが対立するような場合に、宗教法人の運営が宗教法人の利益に沿って行われるようにするために置かれる機関です。

ア 仮代表役員

  代表役員は「宗教法人と利益が相反する事項」については宗教法人を代表することができません(宗教法人法21条1項)。ここにいう「宗教法人と利益が相反する事項」とは、例えば、法人所有の財産を代表役員が個人の立場で購入する場合、代表役員所有の財産を法人に 有償で譲渡する場合、代表役員が法人から金銭の貸付けを受ける場合、 代表役員個人の債務のために法人の財産を担保に供する場合などです。

このように代表役員と法人の利益が相反する場合には、宗教法人の利益のために、仮代表役員を選任しなければならず、仮代表役員は代表役員に代わって業務執行を行うことになります。

イ 仮責任役員

  責任役員は、宗教法人の意思を決定する機関ですが、「特別の利害関係がある事項」については議決権がありません(宗教法人法212項)。ここにいう「特別の利害関係がある事項」とは、責任役員個人と法人の利益が相反する事項をいい、具体的には、特定の責任役員の人事、特定の責任役員が法人職員として受ける報酬や退職金の決定、法人と責任役員間の訴訟などの事項です。

このように、責任役員個人が特別の利害関係を有する事項の決定については、当該責任役員は議決権を有しませんので、仮責任役員を選任することとなります。

 

4.その他の機関

   上記2.及び3.記載の機関以外に、総代、総会等の議決機関、顧問会等の諮問機関、監事等の監査機関などを置かれている宗教法人も多いと思いますが、これらの機関は、宗教法人法上、必ず置かなければならない機関ではなく、各宗教法人の規則に定めることにより、任意に置くことのできる機関です。

 

弁護士 荻野伸一

一覧に戻る