貸付地の管理について(1)
1.はじめに
寺院等の宗教法人(以下、「宗教法人」といいます。)が、その所有地を賃貸されていることが多いと思います。このような土地の賃貸のなかには、戦前や戦後の混乱期に口約束で貸し付けられたものもあり、当時は現在のように借地権が財産権として確立されていなかったことや寺院の立場を考慮して、賃料がとても低廉なものとされていたり、賃貸条件も明確に定められていないものも多くありました。しかし、地価の上昇とともに、特に都市部においては借地権の価値が底地の価値を上回る等、現在においては借地権の重要性が格段に増しています。それにもかかわらず、上記のような土地の賃貸条件をそのままにしておかれる等、賃貸されている土地の管理を十分になされていない宗教法人も多く見受けられます。
そこで、以下では宗教法人が賃貸されている土地の管理について注意すべき事項について述べたいと思います。
2.土地の貸付けと法人税
今回は土地を賃貸することによって生じる収入が法人税の課税対象とならない場合について述べたいと思います。
宗教法人による土地の賃貸は、その内容によっては、「不動産貸付業」(法人税法施行令5条1項5号)に該当します。この「不動産貸付業」に該当すると、収益事業(法人税法第2条13号)として法人税が課されることとなりますので、土地の賃貸を行うにあたっては、まずはこの点に注意する必要があります。
それでは、宗教法人が行う土地の賃貸は、どのような場合に「不動産貸付業」に該当するのでしょうか。
この点、不動産(土地、建物)の賃貸は、次の①から③のいずれかの場合を除いて「不動産貸付業」に該当するとされています(法人税法施行令5条1項5号ニ・ホ・ヘ)。
① 宗教法人法第4条2項に規定する宗教法人が行う墳墓地の貸付業
② 国又は地方公共団体に対し直接貸し付けられる不動産の貸付業
③ 主として住宅の用に供される土地の貸付業で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の財務省令で定める要件を満たすもの
以上の①と②についてはわかりやすいのですが、③についてはその要件を満たすか否かは以下のように判定されます。
まず、③にいう「主として住宅の用に供される」とは、(ア)当該貸付地の上にある建物の床面積の2分の1以上が居住の用(賃貸住宅の用を含み、別荘の用を除きます。)に供されており[1],(イ)当該貸付地の面積が当該貸付地の上にある建物の床面積の10倍以下であることをいいます(法人税基本通達15-1-20)。
また、「貸付けの対価の額が低廉であること」とは、当該貸付地について経常的に収受する地代の額(契約の締結、更新又は更改に伴って収受する権利金その他の一時金の額はこれに含めません:法人税基本通達15-1-21)が、当該貸付地に課される固定資産税額及び都市計画税額の合計額の3倍の金額以下であることとされています(法人税法施行規則4条)。
このような(ア)及び(イ)の要件を満たす場合には、土地の賃貸は「不動産貸付業」に該当せず、非収益事業と判定されます。
以上のとおり、上記の①ないし③のいずれにも該当しない土地の賃貸(例えば、賃貸している土地の上の建物が事務所として使用される場合や、駐車場として利用するための土地の賃貸等)は「不動産貸付業」に該当し、収益事業して法人税が課されることになります。また、収益事業と判定された土地に関する賃貸借契約の更新料や賃借人の名義変更に対する承諾料等も収益事業として法人税が課されることになりますのでご注意ください。
次回以降では、適正な賃料等の決定方法や借地法・借地借家法との関係について述べる予定です。
弁護士 荻野伸一
[1] 例えば、店舗兼住宅として使用している建物では、その建物の床面積の2分の1を住居として使用している場合は居住用の建物となります。また、居住用の建物とは、借地人自身が住居として使用している必要はなく、借地人が建物を他人に貸している場合も含みます。