代表役員解任の定めが規則上存在しない場合の代表役員の解任権限の所在

代表役員解任の定めが規則上存在しない場合の代表役員の解任権限の所在

 

弁護士 武田雄司

 

ポイント

1.代表役員解任の定めが規則上存在しない場合の代表役員の解任権限は、(特段の事情がない限り)代表役員の選任権限を有する者が有する。

 

2.法務局の扱いによっては、代表役員の解任の登記をするためには、先行して、解任権限を明確に規定した規則変更が必要である旨指導されることがあり得るものの、裁判例を示しながら協議をすることで、扱いを変更してもらえる可能性もあるため、諦めずに交渉する。

 

第1 はじめに

宗教法人の代表者の選任については、宗教法人法18条2項に「代表役員は、規則に別段の定がなければ、責任役員の互選によって定める。」と規定されていることもあり、各宗教法人の規則に定めがなされていることも多く、また、定めがない場合でも、責任役員の互選によって定めがなされるため、選任権者について争いが起こることはあまり多くありません(もっとも、「互選」すべき「責任役員」がそもそも誰かという問題は、責任役員の任期切れや死去後何ら手続をしないこと等によって、生じることは比較的多いところです。)。

 

しかしながら、解任権については、宗教法人法に規定がなく、規則にも規定されていないこともよく見受けられることから、いざ解任をしようと思っても、どのような手順を踏めばいいかわからないといったことや、宗教法人の内部で代表役員の地位を巡って実際に争いが生じると、対立当事者がお互いに解任をし合う等、混沌とした状況もよく見受けられます。

 

そこで、本稿では、代表役員解任の定めが規則存在しない場合の代表役員の解任権限についてみていきたいと思います。

 

第2 裁判例

結論としては、規則で解任権者が定められていない場合には、代表役員を選任する権限を有する機関にあるものと解すべきと判断されています。

 

以下、具体的な事例をご紹介致します。

 

■昭和55年6月3日/東京地方裁判所/民事第8部/判決/昭和51年(ワ)7549

 

・解任された代表役員が宗教法人の解任決議及び新たな代表者の選任決議の無効の確認を求めた裁判

 

法人規則に代表役員解任の定めがないときに代表役員を解任し得る場合があるとしても、その権限が当然に責任役員会にあることの慣習ないし条理が存することの証拠はなく、むしろ、かかる場合、代表役員を解任する権限は、代表役員を選任する権限を有する機関にあるものと解すべきところ、被告にあっては、前示のとおり、被告の代表役員は、被告に所属する宣教師の互選により選定されるのであるから、代表役員を解任する権限も前記宣教師にあるものと解される。

 

⇒結論として、被告の責任役員会には代表役員を解任し、且つ新代表役員を選任する権限はないから、被告の責任役員会がした解任決議は無効

 

■平成27年8月31日/東京地方裁判所/民事第8部/判決/平成26年(ワ)26086

 

・被告の代表役員の地位にあると主張する原告が、被告に対し、その代表役員の地位にあることの確認を求めた裁判

 

(1)原告の解任決議

被告の平成26年3月13日付け臨時信徒総会(以下「本件信徒総会」という。)の議事録には、原告を被告の代表役員から解任し、その後任としてAを選任する決議をした旨の記載があり、被告の同年4月23日付け総代会(以下「本件総代会」という。)の議事録には、原告を被告の代表役員及び責任役員から解任する決議をした旨の記載がある。

 

(2)判断

被告の規則の中には、代表役員の解任権限の所在や解任手続についての定めは見当たらないところ、通常は、その選任権限を有する機関が解任権限をも有すると解されるのであり、被告の信徒総会が代表役員を選任する権限を有していないことは前記前提事実(※)のとおりであるから、信徒総会は代表役員を解任する権限も有しないというべきである。仮に被告の信徒総会に代表役員を解任する権限があったとしても、適法な手続の下において本件信徒総会が開催されて原告を代表役員から解任する決議がされたことを認めるに足りる証拠はない。

(※)被告の規則の定め

被告の規則には、下記の定めがある。

第5条 この法人に責任役員3名を置き、そのうち1名を代表役員とする。

第6条 代表役員は責任役員の中から互選する。

2.代表役員以外の責任役員は、総代の中から代表役員が選定し、任命する。

第15条 総代は3名とし、崇敬者の中から代表役員が任命する。

 

⇒結論として、解任決議をした信徒総会は、代表役員を選任する権限を有しておらず、解任決議は無効

 

第3 登記実務上の留意点

以上のとおり、裁判例上は、規則に代表役員の解任権者が明記されていない場合には、原則として代表役員の選任権者が解任権を有するものとして判断されています。

 

しかしながら、法務局における登記実務上は、慎重を期してか、規則上解任権の所在が明らかではない以上、代表役員の解任登記を行う前に、解任権の所在を明記した規則への変更を求める扱いもあるようです。

 

もっとも、解任の問題が顕在化している場面においては、改めて解任を争う者を含めて規則変更手続をとることは事実上不可能である場合がほとんどと思われます。

 

そのような場合には、上述の裁判例を示しながら、法務局と交渉し取り扱いの変更を求めていくことも一つの対応になりますが、実際に取り扱いを変更いただけることもあるため、法務局の指示は絶対と諦めずに、協議をする方法もあると頭に入れておいてもらえるといいのではないでしょうか。

 

以上

(弁護士 武田雄司)

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